がん早期発見、負担軽く 血中アミノ酸濃度や線虫でも
検診の有用性、周知が課題
日本経済新聞電子版
1滴垂らすだけ
体長が約1ミリメートルの線虫は嗅覚が犬並みとされ、嗅ぎ分けができる。がん患者は体内のがん細胞の活動などで汗や尿のにおいが健常者とは異なるとされる。
実験では線虫がいる容器に尿を1滴垂らすとがん患者の尿には線虫が集まり、健常者の尿からは離れていった。健常者を含む242人の尿で反応を調べたところ、大腸や胃、乳房のがん患者24人中23人を陽性だと判断できたという。
中には採尿時点ではがん発症が不明だった人もいた。早期発見につながるだけでなく、判定に必要な時間も1時間半程度。従来の検査に比べ、患者の身体への負担も小さい。
今後もより患者が受診しやすく、早期発見につながるような検査手法の開発が続く見通しだ。ただ国内では欧米に比べてがん検診の受診率は低く、このままでは有効に活用されないまま、患者が見逃されてしまうという懸念は減らない。
がん検診に詳しい医師で理化学研究所の中川英刀チームリーダーは「検診で早期に見つけたことで生存率がどの程度高まったのか、という結果を明示するなどして、積極的な受診を促していく必要がある」と指摘する。
欧米より低い受診率
厚生労働省の国民生活基礎調査(2013年)によると、40~60代の男性で過去1年間に検診を受けた人の割合は肺がんが48%、胃がんが46%、大腸がんが41%。女性はいずれの受診率も男性より10ポイントほど下回った。欧米で受診率が7~8割に達する乳がん、子宮頸(けい)がんはともに30%台前半。国際的に見ても受診率は低迷している。
内閣府が1月にまとめた調査で、がん検診を受けない理由(複数回答)は「受ける時間がない」が48%で最も多かった。「費用がかかる」「がんと分かるのが怖い」「健康に自信がある」がそれぞれ30%台で続いた。政府は12年のがん対策推進基本計画で、受診率を50%にあげる目標を設定。市町村の検診費用を補助したり、受診を呼びかける小冊子を配ったりしている。
厚労省は「がんは2人に1人がかかるとされる身近な病気で、早期発見で治る可能性も高くなる。症状がなくても定期的に検査してほしい」(がん対策・健康増進課)としている。
(新井重徳、小川知世)
[日本経済新聞夕刊2015年10月25日付]