小児用抗がん剤なぜ増えない 個人輸入でしのぐ患者も
日本経済新聞電子版
遅れを取り戻そうと国立がん研究センターや大阪市立総合医療センターがレチノイン酸の仲間でビタミンAに似たタミバロテンを使った医師主導の治験を15年に始めた。遺伝子の働きを調節する脱メチル化剤デシタビンと組み合わせ、再発がんの治療効果を高める方法も取り入れた。主に安全性を調べる最初の段階を終えて有効性をみる第2段階に進んでいる。

最近、注目される免疫療法で使う抗GD2抗体という薬も、「海外では標準だが日本では承認されていない」(富沢部長)。抗体はがん細胞表面のGD2という物質にくっつく。そこへ白血球などが結合し、細胞を殺す。点滴薬で、医師の管理下でないと使えない。現状ではこの薬で治療を受けたければ海外に行くしかなく、ハードルは高い。
大阪市立総合医療センターなどは12年から、抗GD2抗体と白血球の働きを高めるサイトカインを組み合わせて使う医師主導治験を実施してきた。データがそろい、大原薬品工業がこのほど承認申請した。8月に希少疾病用医薬品に指定されており、承認に要する期間が短縮される見通しだ。

小児がんの発症は年間2500人前後と少なく、臨床試験の被験者を集めにくい。低年齢だと錠剤やカプセルは服用できず、液や粉末を別途、開発する必要もある。製薬企業にとって採算が合いにくく、薬が増えないという。
このため、米欧では00年代の初期に、成人の薬を開発する際に、小児用の治験計画も提出するよう法で義務付けた。見返りに特許の独占実施権の延長や審査期間の短縮クーポン付与など、インセンティブを与える。結果として、小児が使える薬は飛躍的に増えた。
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国内に開発促す動き
日本でも小児用の薬の開発を促す動きが出てきた。19年に施行された成育基本法に基づき、20年2月に厚生労働省の成育医療等協議会が発足し基本方針を検討中だ。6月にまとめた骨子案には小児用薬剤の開発を盛り込んだ。
血液のがんなどでは治験に参加する患者に小児を含めやすくなった。厚労省は6月、10歳または12歳以上を成人の治験に組み込むのは場合によっては妥当だとする通知を出した。
ゲノム(全遺伝情報)医療の普及も追い風になる可能性がある。特定の遺伝子変異で起きるがんの薬として承認されれば、そこに小児がんも入り得る。「すでにそうした薬が出始めている」と国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科の小川千登世科長は期待する。
ただ、小児向け用量をどう定めるかという問題もあり、そう簡単ではないとの指摘もある。何らかの開発インセンティブが必要だ。
(編集委員 安藤淳)
[日本経済新聞朝刊2020年9月28日付]