治りにくい咳、中高年で急増
肺非結核性抗酸菌症
日本経済新聞電子版
慶応義塾大学病院の長谷川直樹教授らのグループが6月にまとめた調査で、肺非結核性抗酸菌症にかかる患者の割合が急増していることがわかった。07年に調査したときの2.6倍に増え、肺結核の罹患(りかん)率を上回った。最も難治性のタイプは同約5倍に増えていた。
研究グループは14年、884の医療機関にアンケート調査をした。肺非結核性抗酸菌症にかかる人の割合は10万人当たり14.7人だった。一方、菌が確認された肺結核患者の割合は同10.2人だった。
患者数が急増しているのは、高齢化でかかりやすい人が増えたことや診断精度の向上などが考えられるが、明らかな理由は不明という。
◇ ◇ ◇
病気の進行は人によって異なる。「通常は20年から30年かけてゆっくりと症状が悪化するが、まれに数年で急激に悪くなるケースもある」と長谷川教授はいう。
病気がひどくなると亡くなることもある。死亡者数は最近20年間でおよそ6倍に増加しており、2014年には1300人を超えたという。「もはやめずらしい病気ではない。将来は結核の死亡者数を抜くと予想される」と永寿総合病院の南宮湖医師はみている。
治療はクラリスロマイシンとリファンピシン、エタンブトールという3種類の抗菌薬を併用するのが基本になる。抗菌薬が効かない場合は、空洞や気管支拡張病変を手術で取り除くこともある。
ただ、いったん菌が消えても再発するケースもあり、定期的に診察を受ける必要がある。特殊なケースを除けば、治療薬が効く結核よりも、やっかいな病気ともいえる。
このため、新しい治療薬の開発を急ぐ必要がある。現在、通常の治療では菌が消えない患者を対象に「リポソーマル・アミカシン」という吸入剤の臨床試験(治験)が進んでいる。このほか、「ソリスロマイシン」という抗菌薬が出てきた。「この薬の治験は肺炎や気管支炎を対象にしているが、肺非結核性抗酸菌症にも効果があるかもしれない」と小川副院長は期待する。
また、南宮医師らは「どのような人が感染しやすいか研究を進めている」という。感染しやすい人のタイプが詳しくわかれば、治療薬の開発にも役立つと期待される。
肺非結核性抗酸菌は水や土壌中など環境中のどこにでもいる。土ぼこりや水蒸気に含まれる菌を吸い込んで、この病気にかかったと推定される。
土ぼこりを週2回以上浴びる仕事に就く患者のたんに含まれていた菌と、仕事場の土にいた菌の遺伝子型が一致したケースや、浴槽にある出水口などにいた菌が患者の菌と同じだった例などが報告されている。
小川副院長は「感染源を特定するのは難しいが、風呂場を乾燥させて、カビが生えにくい環境にすることが大切。薬が効いて良くなった人は、新たな菌を吸い込まないように家庭菜園などは避けた方がよい」とアドバイスする。
- 次ページ
- 罹患率 日本が突出 治療薬の開発急務