高齢者の「薬漬け」対策急ぐ 学会指針、専門外来…
体力低下、副作用出やすく
日本経済新聞電子版
代表的な薬例示
こうした問題を受け、日本老年医学会は昨年11月に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」をまとめた。慎重な投与が必要なものとして抗精神病薬や睡眠薬、鎮痛薬など20領域の代表的な薬剤を例示。認知機能低下や転倒、出血といったそれぞれの主な副作用に加え、「漫然と長期投与せず、減量、中止を検討する」「可能な限り使用を控える」などの注意事項を付記した。
ガイドライン作成を主導した東京大学病院老年病科の秋下雅弘教授は「医師や薬剤師はこれを参考に、どこから見直すべきか検討してほしい」と訴える。
医療機関も対応に乗り出した。栃木医療センター(宇都宮市)は医師と薬剤師が組み専門外来「ポリファーマシー外来」を開設している。病院側が多剤併用している患者の服用薬を確認し、それぞれの要否を判断して整理するのが役割だ。
昨年1年間で47人に投与されていた延べ422種の薬のうち、半分以上に当たる237種類を中止した。同外来の責任者、矢吹拓内科医長は「診療所を含めて地域全体で取り組みが広がれば」と期待する。
チームで連携
虎の門病院は「高齢者総合診療部」で対策を進めている。医師や看護師、薬剤師などがチームを組み、高齢者が多剤併用にならないようサポート。井桁之総・同部長は「救急科との連携を強化していく」と話す。
調剤薬局も同様の役割が期待される。「具合はどうですか。変わったことはないですか」。アイン薬局汐入店(東京・荒川)の薬剤師、高津潤子氏は高齢者にこう声を掛ける。効き目や副作用の有無を確かめ、「異常がありそう」と判断したら処方箋を出した医師に報告し、対応を相談する。
もともと薬局は「お薬手帳」などを通じて患者の服用薬を把握しやすい。さらに今年4月の診療報酬改定で、患者の指名で薬を一括して管理する「かかりつけ薬剤師制度」も始まった。「以前は医師に見直しを提案してもなかなか聞いてもらえなかったが、最近は耳を傾けてくれるケースが増えた」(高津氏)
インフラ整備も必要だ。電子カルテが普及し、患者の薬の情報が一元化され、それが共有化されれば多剤併用は減るだろう。診療所への整備や病院との連携が求められる。
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- 高齢患者の服薬 3割が「10種以上」