5時間睡眠、うつ病のリスク 100時間残業に相当
日本経済新聞電子版
血液分析で診断
最新の画像診断技術などを使えば残業時間、睡眠時間とうつ病などとの関係がもっと明確になり対策も立てやすくなるだろう。すでに近赤外分光法(NIRS)で脳の血液量を調べ、うつ病の診断に役立てる方法は広がりつつある。
慶応義塾大学医学部の三村将教授らは陽電子放射断層撮影装置(PET)で脳内で神経伝達物質の取り込みを担う「ノルアドレナリン・トランスポーター」の密度を測定し、うつ病の症状との関係を明らかにした。慶大発ベンチャー企業ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(山形県鶴岡市)は手軽に測れる血中の微量成分の濃度から、うつ病を診断する手法の普及をめざす。今後のデータの蓄積に期待が集まる。
「過労死ライン」労災認定の目安 働き過ぎと発症 関連性強く
政府が今秋の成立をめざす「働き方改革法案」には、残業時間を「月100時間未満」とすることを盛り込んだ。月100時間は「過労死ライン」とも呼ばれる。過労死の労災認定の根拠となる「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」に、著しい疲労の蓄積をもたらしたかを判断する目安として月100時間の記載があるからだ。
具体的には「発症前1カ月間におおむね100時間、または発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって1カ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」などとしている。
うつ病などに関しては、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」がある。「強い心理的負荷」となる長時間労働として「発病直前の3カ月間連続して1カ月あたりおおむね100時間以上の時間外労働」などを例示。月100時間程度の「恒常的長時間労働」と転勤などの出来事との組み合わせも強い心理的負荷を招くとしている。
セクハラやいじめとの関係なども示され、単純に残業時間と発症の有無とを結びつけてはいない。ただ、専門家の多くは、100時間程度の残業が続くと仕事上の様々な出来事に伴う精神的な負荷に耐えられる余裕がなくなると警鐘を鳴らす。
(編集委員 安藤淳)
[日本経済新聞朝刊2017年8月21日付]