高齢者の衰え「フレイル」、運動や食事で予防・回復
1日5~6千歩 日光浴びる
日本経済新聞電子版
運動ではウオーキングが一番取り入れやすい。最低でも1日5000~6000歩を継続すると筋力の低下を防げる。長寿医療研究センターは、ロボット技術を生かした歩行補助装置を使ったウオーキングでも、自立の歩行とほぼ同様の効果があることを確かめており、人によっては活用も考えられる。
また荒井副院長らは高齢者向けに、ゴムバンドを使う筋肉トレーニングのプログラムを作った。屋内でできるし、ゴムの強さを調節して関節を痛めないように配慮した。
食事面では、筋肉のもととなるたんぱく質の摂取が大切だ。性別を問わず体重1キログラム当たり1グラムのたんぱく質を毎日食事から取ることが望ましい。体重50キログラムの人の場合は50グラムだ。肉や魚、大豆、牛乳などがたんぱく質を多く含む。平均すると日本人は必要なたんぱく質を取っているが、好き嫌いの差があり人によってまちまちで、注意が必要だ。
同時にビタミンDも必要だ。体内のビタミンDは太陽光を受けて活性化し、たんぱく質の合成を促す。最近注目されている作用だ。鈴木所長は「1日に5分でいいから日光に当たろう」と付け加える。
日本人の平均寿命は長いが、自立して生活できる健康寿命との差は男性で約9年、女性で約13年もある。フレイルの回避で健康寿命を延ばせる。関係者はこの期間を半分にしようと目標を立てている。
名前変えただけと批判も… 対策、分野超えた連携を
「フレイル」の考え方は介護や福祉の関係者に理解され始め、他の医療分野でも取り入れるケースが出てきた。例えば日本歯科医師会では「オーラル・フレイル」と呼び、滑舌が低下する現象や食べ残し、むせかえり、かめない食品の増加などを指標に、食欲の低下や食材の種類の減少などに注意を払う運動を始めた。80歳になっても自分の歯を20本以上持っていようという「8020運動」と並ぶ主要な活動に位置づけている。
厚生労働省もフレイル対策を政策に取り入れ始めた。しかし、社会全般で広く理解されている言葉ではない。呼び方を変えただけで実態は何も変わっていないとの指摘もある。
的確な対策にはスポーツ医学や栄養学、ロボットなどの工学、脳科学など幅広い分野が結集する必要がある。新しい制度の整備や投資と効果を評価する視点も大事だ。関係者の密接な連携が重要といえる。
(編集委員 永田好生)
[日本経済新聞朝刊2015年8月16日付]