腸内細菌で体が変わる?
移植で腸炎改善も
日本経済新聞電子版
免疫に影響も
腸内細菌が変わると、免疫の働きにも影響が及ぶという。「抗菌剤の服用によって腸内細菌数が大幅に減少したところに、数兆個もの細菌が一気に入り込む。この劇的な変化が、潰瘍性大腸炎の原因とみられる、異常な免疫の働きを改善する可能性がある」と石川助教はみている。
下痢で1日13回ほどトイレに駆け込んでいた患者が、移植を受けて2カ月後には病状が落ち着き、排便回数が同1、2回に減ったという例もある。一方で効果が無い人がいるのも事実だが、「今後はさらに50人ほどに実施して、効果やメカニズムを調べる」(石川助教)。なお、同様の研究は現在、慶応義塾大学、滋賀医科大学でも実施している。
慶応大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授は、「腸内細菌叢は、腸管の細胞と共に複雑な腸内生態系を作り、免疫系や神経系、ホルモン産生などにも関わる。もはや一つの“臓器”」と話す。
腸内細菌叢のバランスの乱れは大腸炎や大腸がんなどの腸の病気にとどまらず、肥満やアレルギー、肝臓がん、糖尿病、動脈硬化症などにかかわることがわかってきた。細菌叢を良いバランスにすることが病気予防につながる。普段から腸によい食事を心がけることが大切だ。
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は、ヨーグルトや発酵食品などに多い。一方、腸内で善玉菌のエサになる食品にはオリゴ糖や食物繊維がある。特に水溶性食物繊維を分解して作られる成分が注目されている。
「いろいろ試し、自分の腸と相性の良いものを見つけるといい。最初の数日間は腸内細菌叢が変わる途中段階なので、お腹がゴロゴロすることもあるが、続けるうちに安定する。1週間は続けてみてほしい」と福田特任准教授。排便の回数や形、臭いなどの状態が良い方向に変化したら、腸内環境がよくなった証拠だという。
便の色や臭いで環境チェック
腸内環境の良しあしを普段から把握するには、便の状態をよく見ることだ。「定期的に排便があり、色が黄色っぽく、形がバナナ状なら、よい腸内環境と思っていい」と福田特任准教授。
臭いが強いから腸内環境が悪いとは必ずしも言えない。例えば腸内細菌が作り出す酪酸という物質は、ギンナンと同じ臭い成分だ。「酪酸は過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞を増やし、アレルギーや大腸炎を起きにくくする」(同准教授)
腸内細菌は食物繊維を分解して酪酸や酢酸、プロピオン酸などを作り、これらが健康に貢献する。ただし、卵が腐ったような臭いは悪玉菌による腐敗臭。注意したい。
(ライター 佐田 節子)
[日経プラスワン2015年8月1日付]