脅威はMERS以外にも 感染症「耐性菌」が出現
日本、専門家養成急ぐ
日本経済新聞電子版
新興感染症の大半は人と動物に共通して感染すると考えられ、人類が免疫を取得していないので重症化しやすいとされる。病原体がひそかに生息していた熱帯ジャングルから人間社会に広がることもあり、今後も未知の感染症が発生する可能性はある。
同様にリスクが高まっているのが薬剤耐性菌だ。抗菌薬に耐性を持った細菌全般を指し、抗生物質の使いすぎなどが原因とされる。中でも複数の薬に耐性を持つ「多剤耐性菌」は治療が難しく、抵抗力の落ちた入院患者や高齢者に感染すると重症化する危険が大きい。50年には全世界で耐性菌による死者数が年間1千万人になるとの予測もある。WHOも昨年4月、耐性菌の世界的拡大を抑えるために抗生物質を適正に使用するよう促した。
日本での被害は少ないが、昨年9月には三重県内の病院で患者から多剤耐性菌の一つ「薬剤耐性アシネトバクター」という細菌が検出された。海外で感染して持ち込まれた可能性がある。名古屋大大学院の荒川宜親教授は「いつ新型の多剤耐性菌が国内に入ってきてもおかしくない」と指摘。「疑わしい症例があれば問診時に最近の海外渡航歴を確認し、その地域で流行している耐性菌を考慮した検査が必要だ」と指摘する。
昨年約70年ぶりに国内感染が確認されたデング熱など昆虫による感染症のリスクも高まる。13年に国内で初めて見つかったマダニが媒介するウイルス性感染症「重症熱性血小板減少症候群」(SFTS)は致死率が高い。感染研によると、今年5月末までに西日本を中心に34人が死亡した。
高まる感染症リスクに対し、日本の備えは十分とは言いがたい。最も懸念されるのは感染症の専門家の不足だ。エボラ出血熱が騒がれた際には、スタッフの不足から患者を受け入れる「指定医療機関」が整備できない自治体が相次いだ。
日本感染症学会が認定する専門医は約1200人で、米国の数分の一程度とされる。医療関係者からは、60年代以降に結核などの感染症が撲滅され、感染症を専攻する医師が減少したことを指摘する声もあがる。
ハード面の対応もこれからだ。エボラウイルスなど危険性の高い病原体を扱うために必要な、安全基準が最高の施設「BSL-4」はいまだ稼働していない。感染研・村山庁舎(東京都武蔵村山市)はその能力を持つものの、周辺住民らの懸念が払拭されずに稼働できていない。