アップルウオッチの心電図アプリ、医療機器に アプリで健康チェック
日本経済新聞電子版
心疾患関連のアプリが承認されて以降、同外来には、アップルウオッチからスマートフォンのiPhoneに転送した心拍などの様々なヘルスケアデータや、印刷した心電図を持参して相談に来る人が相次いでいる。突然の動悸(どうき)や胸の違和感を覚えた人が不安を感じ、その場で記録した心電図を持ってくることが多いという。
小川聡クリニック(東京・港)は在宅での心臓管理を支援する「AW―ECGパッケージ」を開設、外来患者に自分でとった心電図を送信してもらい、リモートでの病気の早期発見に役立てようとしている。アップルウオッチのデータを診断の参考にする医療機関は増えており、心疾患診断の風景は変わりつつある。
医療機器として承認されたアプリは心拍リズムないしは心電図を解析して、心房細動の可能性をユーザーに通知する機能がある。ただ病院や健診で行われる検査とは別物であることに注意が必要だ。「アプリの判断はあくまで医師の診断を補助するもの。患者さんも医師も、この結果だけを基に健康状態の判断をしてはならない」と木村氏はいう。
アップルウオッチで心電図をとるときは、左手首に装着している場合、右手の指で竜頭(つまみ)に約30秒間触れて測定する。健診などでは通常、両手首と両足首の4カ所、胸に6か所電極を取り付けて12種類のデータをとるが、アップルウオッチで得られるのは、このうち両手首間の計測に相当する波形だけだ。
一方、不規則な心拍の通知プログラムは、心電図と違って意図的に記録する必要がないため、無症状の心房細動を検知してくれる有用なツールとなりうる。しかし「常時チェックしているわけではないため、通知がないからといって心房細動が無いわけではないし、心房細動以外の心臓の異常は通知されない」(木村氏)。
こうした制約や限界があるものの、木村氏は今回のアプリのメリットは非常に大きいと考えている。中高年に多い心房細動は自覚症状がないまま大事に至るケースが少なくないためだ。「本人が意識しなくても脈拍をモニターしてくれたり、いつでもどこでも自分の腕で心電図がとれることは画期的。コロナ禍だからこそ、家庭での自己健康管理を充実させ早期発見につなげてほしい」としている。
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異常データ発見へ臨床研究
慶応義塾大学病院は、アップルウオッチの心電図アプリで効率よく心臓の異常を記録するための臨床研究「アップルウオッチ・ハートスタディー」を2月に始めた。
臨床研究は同病院に通院する心房細動の患者グループとアップルウオッチの一般ユーザーをそれぞれ対象に実施。患者グループでは、臨床現場で使っている心電図検査の結果をもとに、アップルウオッチが記録するヘルスケアデータや心電図を解析することで、心臓の異常を予測するアルゴリズムを構築する。
一般ユーザーが参加する臨床研究では、アップルウオッチを睡眠時に着け、翌朝質問表への回答を7回行う。睡眠や飲酒、ストレスのデータと共に、患者グループで構築したアルゴリズムを適用。ヘルスケアビッグデータを人工知能(AI)で解析をすることで、どのような時に不整脈になりやすいかを探る。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2021年5月19日付]