死因の3位 肺炎、高齢者の予防接種カギ
日本経済新聞電子版
国が一部費用負担をして定期接種の対象とした背景には、個人の肺炎を予防することで医療費全体の削減につなげたいという狙いもある。厚生労働省の専門分科会は定期接種にすると約5000億円の医療費を削減できると試算した。ワクチンを高齢者全員に接種する費用を見込んでも、重症化して入院する患者数が少なくなるので医療費は減るという理屈だ。
定期接種制度導入後の接種率は、導入前の20%から10ポイントほど上がったとみられるが、乳幼児向けのワクチンに比べると低い。肺炎球菌ワクチンは定期接種の中でも強制性はないタイプに分類されている。あくまで個人が自己判断に基づいて自身の体を守るために接種するという位置づけだ。
ファイザーのはまだ高齢者対象の定期接種ではないため任意の接種だ。費用は自己負担で1万円程度かかる。ただ厚労省はすでに乳幼児には、肺炎予防のためにファイザーのワクチンを定期接種として実施している。ワクチン接種で乳幼児の保菌者が減ることで、高齢者の肺炎患者が減る効果も出てきているという指摘もある。
米国ではメルクとファイザーの両方のワクチンを国が推奨した。日本では、まだそこまでの方針を打ち出していない。明治薬科大学の赤沢学教授は「米国は費用対効果を分析した上で結論を出している」と話す。日本は肺炎球菌ワクチンの定期接種が始まったばかりで本当の予防効果が見えてくるにはまだ時間がかかる見通しだ。
一方、感染研の大石センター長は、「肺炎すべてを予防できるわけではない」と指摘する。高齢化が進む中、高齢者の肺炎リスクはさらに上がる。予防に向けた議論は不可欠だ。
ワクチン接種に抵抗感 社会全体の免疫は向上
ワクチンはもともと免疫の弱い赤ちゃんや子どもなどを感染症から守る役目がある。麻疹や風疹、破傷風、ポリオなどが代表例だ。今は流行がない病気もあるが、海外からの病原体侵入に備えて定期接種している。感染で死や重い障害に至るリスクがあるからだ。
ワクチンは、発病や重症化の防止に効果がある一方で、頻度は低いが一定の割合で副作用が生じる。日本では学校などの集団接種で起きた裁判などの影響で、ワクチンへの抵抗感は根強い。若い女性向けの子宮頸(けい)がんワクチンでも、接種後にまれに全身の痛みなどが出る問題の影響で接種の積極勧奨が中止されたままだ。
高齢者が肺炎球菌ワクチンを打つ意義について、愛知医科大学の三鴨広繁教授は、「社会全体が肺炎に対する免疫を持てるメリットが大きい」と説明する。個人の肺炎予防と同時に、保菌している人の割合が減り、ワクチン接種ができない人も肺炎から守れる。ワクチン接種の利点と欠点の両面から考える必要がありそうだ。
(新井重徳)
[日本経済新聞朝刊2015年5月24日付]
