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うつ病など気分障害 血液検査や表情のAI解析で診断

発症は年100万人 より良い治療法探る

 日本経済新聞電子版

うつ病などの気分障害は毎年100万人前後が発症するが、精神の状態を正確に診断するのは難しい。薬を服用しても効果がよくわからない場合もあるという。改善へ向けて最新の研究成果や診断機器を使って症状や原因に関するデータを集め、科学的・客観的な診断や治療につなげる取り組みが本格化してきた。

 「どうも、調子がおかしい」。こう言って20代後半の男性会社員が約2カ月ぶりに川村総合診療院を受診した。半年ほど前、うつ病と診断され抗うつ薬を処方されたが自身の判断で薬をやめていた。川村則行院長は再発を疑い、血液検査を勧めた。結果は見立て通りうつ病であることを示していた。男性は納得し、通院と服薬を再開した。

 血液検査で調べたのはリン酸エタノールアミン(PEA)という微量の化合物の濃度だ。うつ病患者で数値が低くなる。ベンチャー企業ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(山形県鶴岡市)と組んで診断システムを実用化した。

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 2011年から血液検査で問診を補う臨床研究を始め、計約5300人を調べた。うつ病患者のPEA値は治療とともに上昇し、再発すると下がるなど有用性を確認できた。ヒューマン・メタボロームは診断用品としての承認取得をめざす。

 うつ病患者は問診に正確に答えない場合も多い。勝手に治ったと判断したり、回復したのに病気のままだと思い込んだりする人もいる。川村院長は「PEAのデータを示して病状を説明すると説得力がある」と実感している。

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 慶応大学の岸本泰士郎専任講師らは、うつ病患者の診断の際、机の上にマイクやカメラを設置している。患者の声、会話速度、表情などを記録するためだ。データを専門家による重症度の評価と合わせて人工知能(AI)に学習させ、発声の様子、表情などからうつ病の症状の重さを判定できるシステムを、データ解析のFRONTEOの子会社などと共同で開発した。

 臨床研究として15年冬~19年春に250人の患者に使い、見ただけではわかりにくい、症状のわずかな悪化もとらえられた。

 通常、30分程度かけて実施する問診はうつ病患者には負担で、医師も時間が足りない。AIだと5~10分の会話からある程度の判定ができ、双方に役立つと岸本専任講師はみている。

 うつ病患者の脳内の信号のやりとりの変化を調べ、問題部分をみつけて根本から治したい。そんな発想で磁気共鳴画像装置(MRI)を使ったうつ病診断や治療の試みを始めたのは、広島大学の岡本泰昌教授らだ。

 脳内のどの領域どうしの活動が似ていて、つながりが強いかという脳内ネットワークの「機能的結合」を調べてきた。14個の結合がうつ病と関係があると判明し、これらを健康な人と同じ状態にすれば治療効果が得られるとみている。

 やり方はこうだ。患者はMRIで画像をとりながら頭の中で計算やしりとりをし、目の前の画面で脳の特定領域の活動がどう変わるか確認する。その関係を使って自ら活動を強弱できるよう練習する。

 最終的に、うつ病と関係の深い機能的結合を自分で調整し症状の回復につなげる。「ニューロ・フィードバック法」と呼ばれる方法だ。これまでに6人で実施し一定の症状改善が見られた。同じ呼称で効果が不確かな民間療法もあるが「検査精度の向上やデータの集積により、科学的根拠に基づく治療の実現へ近づきつつある」(岡本教授)。

 毎年約2000人の新入生に協力してもらう、大がかりなMRI検査計画も今春から始めた。5年間で約270人のうつ病患者のデータを集め、健康な人と比べる。発症し、症状が進むにつれて機能的結合がどう変わるのか。追跡を続けてよりよい治療法を探る。

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関連遺伝子の解明進む

 精神疾患の原因をたどっていけば、最後は遺伝子の問題に行き着くのではないか。こう考えて患者の症状を遺伝子解析結果と結びつける研究が国際的に活発だ。診断・治療の現場や新薬開発に応用できそうな成果も出始めている。

 比較的進んでいるのは統合失調症そううつ病だ。日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトなどで、約30の遺伝子領域がそううつ病の発症と関係していることがわかった。脂肪代謝にかかわる領域が含まれ、米欧の患者でも同じ傾向が報告されている。ここに作用する薬がみつかれば、画期的な治療効果が得られる可能性がある。

 うつ病についても米欧で遺伝子検査会社と組んだ大規模な解析が始まり、関連性が推定される遺伝子領域がみつかっている。ただ、外部からのストレスなど環境要因も大きく、そううつ病や統合失調症に比べ明確な結論は出しにくいという。

 今後研究が進めば「遺伝子検査をもとに発症リスクが比較的高い人を見つけ、予防策を考えるのに役立つだろう」と藤田医科大学の岩田仲生教授は期待する。ただ、遺伝子による見分けが教育や仕事、社会生活の面で差別を生むなど倫理的問題が生じないよう、仕組みを整えることも必要だ。

(編集委員 安藤淳)

[日本経済新聞朝刊2019年5月6日付]

この記事は、日本経済新聞電子版「病気・医療」からの転載です。