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遺伝性がん診療、地域ぐるみで 患者の負担軽く

検査・手術、越県で分業 データ集約全国で

 日本経済新聞電子版

乳がんや卵巣がんなどにかかりやすい体質が、親から子へ遺伝することがある。これが原因の「遺伝性腫瘍」を地域ぐるみで診療するネットワークが各地で広がってきた。まだ詳しい医師が少なく、遺伝子検査や予防的な手術などを手掛ける医療機関が限られるためだ。それぞれの得意分野を共有し、地域を一つの病院に見立てて多様な選択肢を示す。全国から患者の情報を集める試みも始まる。

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習熟医師少なく

 「親族に乳がんの発症者が複数います。遺伝子検査を受けるべきでしょうか」。3月、関東地方の医療機関で30代の女性が遺伝カウンセリングを受けた。

 こうした相談は増えている。米人気女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが発症していないのに、2013年から15年にかけて予防のため両方の乳房と卵巣を取り除いたことなどがきっかけだ。ジョリーさんは母や母方の祖母らを乳がんや卵巣がんで亡くした。

 遺伝性腫瘍の多くは、細胞ががん化するのを防ぐ「抑制遺伝子」が生まれつき変異し、十分に働かないのが原因とされる。主な手掛かりは家族や親族に発症者がいるかどうか。乳がんや卵巣がんが多ければ、いずれかを発症する遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の可能性がある。

 まずカウンセリングで同様のがんが家系内でどう分布しているかなどを詳しく確認。疑いが強まれば、選択肢として変異を調べる遺伝子検査を提案する。変異があれば定期的な検診でがんの早期発見につなげ、患者が望めば発症リスクを減らすための乳房切除や卵巣摘出を行う場合もある。

 ただ遺伝性腫瘍が注目され出したのは最近で習熟した医師は多くない。近場でカウンセリングや遺伝子検査を受けられる地域は東京や大阪に限られる。発症していない部位を取り除く手術をするには、病院内の倫理委員会の承認も必要だ。

 そこで東海地方では13年、医師やカウンセラーらによるネットワークが発足した。名古屋市立大病院(名古屋市)や県立静岡がんセンター(長泉町)など、三重・岐阜を含む4県の約30医療機関が参加。主にHBOCの治療で連携する。

近場で受診

 医師は遺伝性が疑われる患者を、カウンセリングや詳細な検査ができる別の病院に紹介。切除手術などが必要なら実施できる病院に依頼する。認定遺伝カウンセラーでネットワークに参加する大瀬戸久美子さんは「地域全体で一つの病院となるのが目標。患者は東京などに行かずに自宅周辺で受診できる」と話す。

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 九州・沖縄でも九州がんセンター(福岡市)を事務局に、15年春にネットワークが発足。全8県の約20医療機関がHBOCや大腸がんの治療で協力している。同センターの織田信弥・腫瘍遺伝学研究室長は「九州は広い。患者の時間的、経済的負担を減らしたい」と話す。北海道にも札幌医大や北海道がんセンター(ともに札幌市)などによる同様の枠組みがある。

 親族でかかった人は、予防手術後の状態は――。こうした情報のデータベース化も年内には始まる。研究団体「日本HBOCコンソーシアム」(東京)を中心に、各地のネットワークと連携して全国規模で情報を集める。日本乳がん学会など3学会は、HBOCの遺伝子検査や手術などの治療体制を評価・認定する機構を立ち上げる予定だ。

 いずれにも携わる昭和大医学部(東京)の中村清吾教授(乳腺外科)は「遺伝の可能性をいかに早く発見し、予防につなげるかが大切だ。リスク低減のための手術は医療保険の対象外だが、適用を目指したい」と話す。

「遺伝性」発症全体の5% 親族に確認を

 がんの発症には一般的に食生活や喫煙などの環境や遺伝、加齢などがかかわる。遺伝性腫瘍は全体の5%程度とされ、原因の大半は細胞のがん化を食い止める「抑制遺伝子」の変異だ。

 遺伝子の変異が親から子に伝わる確率は性別にかかわらず50%だが、変異があった人が全てがんになるわけではない。例えば「BRCA1」という遺伝子が変異した女性の発症率は乳がんで6割、卵巣がんで4割と推計される。男性は前立腺がんになる危険性が上昇するという。

 遺伝性を疑うポイントとして、家系内に(1)若くしてがんに罹患(りかん)した人がいる(2)何回もがんになった人がいる(3)特定のがんが多い――がある。昭和大学の中村清吾教授は「親族が集まる機会などに誰がいつ、どんながんにかかったかを聞いておくといい」と指摘する。

(平野慎太郎)

[日本経済新聞朝刊2016年4月17日付]

この記事は、日本経済新聞電子版「病気・医療」からの転載です。
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