心不全、チームで患者支援 退院後まで継続的に指導
日本経済新聞電子版
地域に輪広げる
現在はこうした連携の輪を地域に広げる試みに踏み出している。県内7つの基幹病院に「心臓いきいきセンター」を設けて事務局となり、多職種チームの運営や心臓リハビリ施設の整備、心臓病教室の開催といった心不全医療のノウハウを伝えている。
さらに地域で在宅診療を担う診療所や訪問看護ステーション、保健師、ケアマネジャーを対象に2回の研修を通して心不全の知識と技術を伝え、連携する「心不全患者在宅支援システム」の構築を進めている。
重症化すると、心臓移植や心臓の動きを助ける植え込み型人工心臓の装着など外科治療も選択肢となる。
東京大病院(東京・文京)は1月、新たに建設した病棟に高度心不全治療センターを開設した。主に重症な心不全の患者が対象で、心臓移植を待つ65歳未満の患者や、移植後のケアが必要な患者の治療にあたる。
日本は心臓の臓器提供者が少ない。このため循環器内科の小室一成教授は「移植まで患者の命をもたせるのが最大の課題」という。
同センターは、重症心不全の治療に使う再生医療製品「ハートシート」など日本で可能な治療がほぼできる。薬や医療機器の開発につながる手掛かりにしようと、心臓の遺伝子解析にも力を入れる。遺伝子の変異などを明らかにすることで、心臓がうまく動かなくなる理由などを明らかにしていくという。
人口の高齢化に伴い心不全の患者は今後も増え続ける。小室教授は「世界最先端の治療で心不全を『治す』のが我々のゴール」と語る。
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末期の緩和ケアも視野
中等症~重症の心不全患者の3人に2人は65歳以上の高齢者だ。完治が難しく、入退院を繰り返しながら重症化し、5年以内に半数近くが亡くなる深刻な病気だが、一般の人の理解が進んでいない。
このため日本循環器学会と日本心不全学会は2017年10月、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」という一般向けの定義を発表。早期の受診を促している。
治療では進行した患者に対し、がん治療では一般的な緩和ケアも視野に入り始めた。尼崎総合医療センターの佐藤科長は「呼吸困難の緩和のため、医療用麻薬を含めた薬剤を適切に使用することが重要になっている。その意味でも、薬剤師が心不全チームに入る意義は大きい」と話す。
厚生労働省も18年度の診療報酬改定で、末期の心不全患者の緩和ケアを診療報酬の加算対象に加え、支援に乗り出した。
佐藤科長によると、心不全患者の平均年齢は80歳で、その3分の2が独居か2人暮らし。約半数が要介護・要支援認定を受けており、生活上の問題が病状に影響していることが多く、ケースワーカーによる支援が必要なケースもあり、多職種の連携が重要になっている。
(編集委員 木村彰、辻征弥)
[日本経済新聞朝刊2018年3月5日付]
