「診療ガイドライン」で治療への安心を
推奨される治療法と根拠の情報源に
日本経済新聞電子版
病気だと診断されたら、どんな治療を受けるのか不安になるものだ。体験談もいいが、不確かなことも少なくない。参考になるのが、推奨される治療法などを書いた「診療ガイドライン」だ。出版物やネット上で見ることができる。医療者向けが多いが、患者向けの解説も増えつつある。情報を得れば、医師や薬剤師などに質問もしやすくなる。
東京薬科大学助手で薬剤師の倉田香織氏は、診療ガイドラインが思わぬところで役に立った経験を持つ。診療ガイドラインはもともと医療者向けに病気の診断や治療の指針を書いたもので、同氏は仕事で活用していた。
数年前、おじから「主治医から肺がんの抗がん剤治療を勧められたが、薬よりむしろ手術したい」と相談を受けた。親類の知人に、がんの手術をして今は元気に過ごしている人がいたからだ。「手術で取れば治るんじゃないのか。なぜ先生は抗がん剤を勧めるのか」と疑問をぶつけてきた。
タイプ別に推奨
そこで倉田氏は肺がんの診療ガイドラインをひもといた。おじの病期(ステージ)の場合、抗がん剤が推奨されると記されていた。「おじさんと同じようなタイプのがんには抗がん剤が勧められると、診療ガイドラインに書いてありますよ。これは、おじさんが見聞きして知っているよりずっと大勢の患者さんで調べた結果を基に作られているんですよ」と伝えた。
抗がん剤治療が始まった後、おじは「先生も同じことをおっしゃったよ。僕のがんには抗がん剤がいいんだよな」と納得した様子だったという。倉田氏は「診療ガイドラインには、推奨される治療法と、その根拠が書かれている。医療者だけでなく患者にとっても情報源になると実感した」と話す。
手術にするか薬にするか、薬を使うか使わないかなど、治療の過程では、複数の選択肢の中からどれかを選ばなければならない場面が出てくる。診療ガイドラインには、こういった治療上の「疑問」に対して、今の時点で最適と考えられる「お勧め」が示されている。医学の進歩に遅れないよう、数年に一度は見直されるので、常に最新の「お勧め」が分かる。
「お勧め」は、科学的根拠に基づく医療(EBM)の考え方に沿っている。学術論文を系統的に調べ、その内容をまとめた上で、医師や薬剤師など複数の立場の委員で成るチームが、メリットとデメリットを考えて作成する(図参照)。
ただし、実際の患者には様々な事情があり、全員が「お勧め」通りにしなければならないというわけではない。あくまで、選択の際の意思決定をサポートするという位置づけだ。診療ガイドラインが医療現場で広く利用されれば、診療のレベルアップが期待できる。
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