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肺疾患「たばこ病」、国内に530万人 自覚ない人多く

筋力つけて呼吸を安定、高たんぱく食で栄養補給

 日本経済新聞電子版

喫煙などが原因で呼吸機能が低下するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。症状が進むと日常生活に支障が出るだけでなく、死亡する危険もある。適切な運動をしたり食事に気を配ったりすることで呼吸困難などの症状を抑えることができ、患者だけでなく周囲を含めた取り組みが大切だ。

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 COPDは従来、慢性気管支炎肺気腫といわれていた病気で、「たばこ病」とも呼ばれる。肺に空気を送る気管支などが腫れて狭くなったり、肺のなかで酸素を取り込む働きをする肺胞が壊れるなどして起こる。中高年の発症が多く、ちょっとした運動でも息切れするようになったり、せきやたんが長く続いたりする時には要注意だ。

 病状が進行すると呼吸が苦しくなり、酸素吸入器をつけるなどしないと日常生活が難しくなる。2018年7月に亡くなった落語家の桂歌丸さんがこの病気で、鼻に酸素チューブをつけて高座に上がった姿を覚えている人も多いはずだ。

 症状が急激に悪化する急性増悪を起こすと呼吸が困難になり、死亡する場合も少なくない。急性増悪を起こした患者が1年後まで生きている割合は20~30%とされ、心筋梗塞より低い。COPD患者の在宅診療に力を入れているいきいきクリニック(川崎市)の武知由佳子院長は「急性増悪を起こさないよう、病状が安定した慢性安定期を確立することが大切。適切な投薬に加え、呼吸法や筋力をつけるリハビリなどで病状はかなり安定する」と説明する。

軽い筋トレなどのリハビリで急性増悪を起こさないよう病状を改善する=いきいきクリニック提供
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 リハビリといっても、厳しい訓練が必要なわけではない。イスに座ったままでできるCOPD患者向けの体操も考案されていて、重症患者の場合はイスに座って両足を上げ下げするだけでも筋力の回復に役立つ。息苦しさを改善するための両腕のトレーニングが苦しいときは、マスク型の人工呼吸器(NPPV)をつけて呼吸を助けながらやるのもよい。日常生活のなかで適度な散歩をするなどADL(日常生活動作)のトレーニングも症状改善に役立つ。

 運動などのリハビリに加えて、食事の注意も大切だ。重症患者になると呼吸するために1日約700キロカロリーと普通の人の10倍のエネルギーを使う。このため栄養が不足しがちで、体力や筋力が低下していっそう症状を悪化させやすい。一方、食べ過ぎると胃が膨らんで肺を圧迫するので、高たんぱくで高カロリーの食事が求められる。

 日常生活のちょっとした工夫も、病状悪化の予防になる。COPD患者は呼吸機能が低下しているので、かがむなどして胸が圧迫されると呼吸が苦しくなりやすい。

 食事のときに前かがみにならないようテーブルを高めにしたり、肘をついて食べたりするとラクになる。冬に服を1枚多く着てリュックを背負っただけで、息苦しさを感じた患者もいたという。

 急性増悪が始まるときに見られる予兆にも注意が必要だ。

 日常生活の動作のなかでいつもより息苦しそうにするなど、ふだんと違う呼吸苦が見られるが、患者自身が気づかないこともある。

 「患者自身だけでなく、周囲も気づくことで早期受診につながる」と武知院長は同居する家族や介護担当者などの協力の大切さを強調する。

 COPDは進行性の病気で、まだ根本的な治療薬はない。病状を改善して動けるようにすることや、急性増悪の予防のために患者自身が急な病状の変化に対処できるようにすることが大切だ。リハビリなど自己管理を続けることで「急性増悪による入院や救急外来の受診が40%減る」(武知院長)という。医療機関などによるCOPD患者のためのリハビリ指導も増えていて、早めの診断を受けるようにしたい。

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国内に530万人 自覚ない患者も

 国内のCOPD患者は約530万人と推定されているが、実際に診断されて治療を受けているのは約26万人にとどまる。

 症状が出てもCOPDと気づかない患者も多く「カゼをこじらせた、くらいに思っている人も多い」と東京医科歯科大学の烏山一教授は指摘する。

 世界保健機関(WHO)によると、COPDによる世界の死者は2016年に約300万人にのぼり、虚血性心疾患、脳卒中に次いで3位だった。またCOPDになると狭心症や糖尿病などを併発しやすい。

 現在は気道を広げる薬などで症状の改善はできるが、根本的な治療薬はない。東京医科歯科大の研究グループが、白血球の一種「好塩基球」が発症に関係していることをマウスの実験でつきとめていて、治療薬の開発につながる期待がある。

(編集委員 小玉祥司)

[日本経済新聞夕刊2018年12月12日付]

この記事は、日本経済新聞電子版「病気・医療」からの転載です。