3ステップで体の中の自然がよみがえる
呼吸法は昔から、心身の健康を守ったり、集中力を高める方法として重視されてきた。それは呼吸が、「意識と無意識の両方にまたがる行為」(龍村さん)だからだという。
私たちの体を維持する仕組み、例えば食べ物の消化や吸収、血液の循環、体温調節などは、私たちの意識が届かないところで“自律的”にコントロールされている。でも呼吸は例外だ。普段は起きているときも眠っているときも全く無意識にやっているけれど、その気になれば、意識的に呼吸を速めることもできる。呼吸は、意識にも、無意識にもつながっているのだ。
体が不調になったときは、無意識の作用(例えば自律神経の働き)が乱れていると考えられる。ここから、「呼吸を意識的に操作することで、無意識の作用を整える」という呼吸法の発想が生まれたのだろう。
ただし、それでは意識して深く呼吸しさえすれば健康になれるのかというと、話はそこまで単純でもないようだ。「意識的に頑張る」という姿勢は、体に我慢を強いる結果に終わりがち。実際、呼吸法をやったことがない人が、例えば「20秒吐いて12秒吸う」というマニュアルを見て、時計をにらみながらチャレンジしても、すぐに息が苦しくなるだけだろう。
そこで大切なのが、この特集で紹介した三つのステップだ。この3段階を経ることで、無理なく呼吸が深くなり、体の働きが整っていく。ヨガや気功、禅など、呼吸に関わる古典的な体を整える方法には、必ずこれら三つの要素が含まれているという。
人間は、自然が育んだ生き物であり、その意味で、無意識に営まれる体の中の作用は「自然現象」の一部だ。風が舞い、日が昇っては沈み、四季が巡る。そんな自然の営みと同様のたおやかな質感を、昔の人たちは、体の内部にも見いだしていたのだろう。繰り返す呼吸の中に、自然の力を感じてほしい。
(構成・取材・文:永井紗耶子、北村昌陽/写真・スタイリング:Nine Lives/ヘア&メイク:依田陽子/モデル:美帆/デザイン:近江デザイン事務所)
龍村ヨガ研究所所長

(出典:日経ヘルス2010年2月号)