日経グッデイ

Gooday 通信

がん治療を阻む4つの誤解

偏った情報に惑わされ、正しい判断ができなくなることを避けるには

 今は、日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんはもはや“国民病”といっても過言ではありません。「誰もが例外ではない」という認識を持ち、「がんに対する正しい知識」を身に付けることが重要です。検診結果を知らされたときなどに、偏った情報に惑わされて正しい判断ができなくなることは避けたいものです。

 そこでこの記事では、長くがんの専門医として多くの患者さんと接してきたミッドタウンクリニック理事の森山紀之医師が綴るコラム「森山紀之の「拝啓 これからがんになる皆様へ」」の中から、がんの予防や治療で知っておくべき4つの「誤解」や「落とし穴」を紹介していきます。

1. がん検診で「異常なし」の落とし穴

一度受診したがん検診で「異常なし」と判定されると、その後、ノーケアというケースは少なくない。こうした油断が意外な「落とし穴」になる(©jedimaster-123RF)

 がん治療の鍵を握るのはなんと言っても早期発見です。その大きな力になっているのが「がん検診」。冒頭で触れたように、今は「2人に1人はがんになる時代」です。森山先生は、「統計的に見てがんの発症するリスクが高まってくる50~60代の、いわゆる『がん年齢』に達する前に、定期的ながん検診を積極的に受けていただきたい」と話します。

 がん検診で肺がんが見つかった50代のある男性は、5年前にがん検診を受けて、レントゲン写真も、CTも撮って、まったく異常なしでした。それなのに「今さら手遅れだとはなんだ! 前回の検診で見落としたのだろう!!」と森山先生に猛烈に怒ったそうです。森山先生は当時の診断画像を取り寄せて、目を皿のようにして患部を調べ直したのですが、“その時”にはがんの兆候すらなかったそうです。

 黙って彼の怒りを受け止めた森山先生は、「どうして5年間もがん検診を受けなかったのですか」と思ったそうです。そうすれば手遅れになる前に発見できた可能性は高かったはずです。ここにがんの難しさを象徴する「落とし穴」が隠されていると森山先生は話します。

 「がん検診を1度受けて“異常なし”の判定が出ると、ほとんどの人は安心してしまい、その後ずっと『大丈夫』だと思って放ってしまいます。ところが数年後、何かのきっかけでがんが発見され、かなり進行していたというケースは、決して珍しいことではないのです」(森山先生)

 がんはわずか1~2年の間に、発病して進行し、場合によっては治癒が難しい状況に陥る厄介な疾患です。がん検診を1度受けただけでは不十分で、定期的に受けることが欠かせないのです。また、まれにがんが「存在するものの発見できなかった」というケースもあります。

 「こうしたことを防ぐためにも、毎年、がん検診を受ける。“異常なし”と判定が出た後も、継続して検診を受ける。これが大切です。そうすれば、がんが進行性のものであったとしても、手遅れになるような事態を防ぐ可能性が高められるのです」(森山先生)

 がん検診での「落とし穴」については、以下の記事をご覧ください。

がん検診で「異常なし」の落とし穴

2. あなたの医師選びは間違っています

最初にかかった病院でがんと診断されたのですが、こちらの病院の方が有名なので

 森山先生がかつて、国立がん研究センターに勤務していたころ、こうした理由で患者がひっきりなしに訪れてきたそうです。そのほとんどがセカンドオピニオンを求めて来院しているのですが、面白いことに、必ずといっていいほど「病院ランキング」や「病院実力比較」といった類いの記事を手にしていて、なかには「この記事の中からだと、どこがお薦めでしょうか?」といった意見を求められることすらあったそうです。

「がんと診断されると、『病院ランキング』といった記事を手にした患者がセカンドオピニオンを求めにやってきます。ですが、1位も5位も10位も、医療の設備や受けられる治療に大きな違いはありません」(©xiaosan-Fotolia.com)

 自分の身の委ね先を選ぶ指標として、各メディアから発表されている「病院ランキング」などを頼りたくなるのは、無理からぬことです。どんな人でも、自分ががんだと分かれば、「最新の治療を受けたい」「有名な先生に執刀してもらいたい」という思いに駆られるものです。

 「しかし、医者である私から見れば、1位も5位も10位も…、医療の設備や受けられる医療に大きな違いはありません。特に“早期がん”についてであれば、極端な話、どの病院を選んでも、専門を標ぼうしていればほとんど変わらないと考えています。セカンドオピニオンを目的に訪れた早期がんの患者に対しては、そのほとんどに『今かかっている病院で治療を受ければ大丈夫ですよ』とお伝えしていました」(森山先生)

 「例えば、胃がんは、発見された時点では、統計的にその70%は早期がんです。医師として消化器系の分野に携わる者であれば、早期がんを手術する程度の最低限の技量は、ほとんどの医師が有しています。すべてのがん手術がどれも高い技術を求められるわけではありません。治療成績が良好な部位の早期がんの場合などは、医師の腕は特段重要ではないのです。みなさんが心配するほどの“腕の悪い医師”はそうそういませんので、どうか安心して担当の先生に任せてください」(森山先生)

別の医師にかかった方がいい場合とは

 がんは一度発症すると、治療期間が長くなることも少なくありませんから、主治医との付き合いも長くなります。ですので、最初の段階で、医師と患者が良好な信頼関係を築けるかどうかがとても重要です。医師に対して「不満」や「不信」を抱いたまま治療を続けていると、良好な結果を生みません。

 長く付き合うという前提に立つと、「残念ながら、疑問符がつく医師が少なからずいるのも事実です」と森山先生は話します。例えば次のような4つのタイプです。

良好な信頼関係を築けない可能性がある医師の4つのタイプと言動

1.患者の疑問に丁寧に答えず、「自分の言うこと聞け」という雰囲気で威圧する

2.「自分は実績をたくさん積んできた」と、過去の実績をやたらと強調する

3.がんの状態を詳しく説明もしないで、「私に任せれば大丈夫」のひと言で片付ける

4.リスクの十分な説明もなく、「手術で治しましょう」と半ば強引に誘導する

 「このような言動が目立つ医師は総じて、協働作業であるという意識が希薄で、つらい立場に置かれている患者への想像力に欠けています。もしも、あなたが主治医に対して、何か不安を感じたり、どこか不満を抱いたりしているのであれば、自分の大切な体を安心して任せられるわけがありません。上に挙げた4項目にいくつも該当する医師ならば、思い切って病院も医師も変えることをお薦めします」(森山先生)

 医師選びの誤解については、以下の記事をご覧ください。

がん治療、あなたの医師選びは間違っています

3. がんと治療は「痛くてつらい」という誤解

 「先生、がんは痛くなるのですか。治療も苦しいのですよね

 がんを患者に宣告してから、今後の治療方針について説明すると、冒頭のような言葉を口にする人がほとんど。自分ががんであることを冷静に受け止めたはずの患者ですら、手術の日が近づくにつれて落ち着きがなくなり「痛いのは嫌だ」といって、驚くほど取り乱してしまうそうです。なかには恐れをなして、手術直前に「逃亡」してしまう患者すらいたと森山先生は話します。

 患者の多くがそう思う背景には、テレビドラマや映画などで描かれるがん患者の闘病シーンが、ことさら苦しみや痛みの部分を強調しすぎていることがあります。

「がんやその治療が『痛い』『苦しい』といった、壮絶な闘病をイメージさせるのは、医療技術が発達していなかった時代の名残りなのでしょう。ドラマや映画などに取り上げられる設定も、そのほとんどが“演出”が効いた特異な例であることが多いのです」(©XiXinXing /PIXTA)

 しかし、森山先生は、「かなり進行したごく一部のがんを除けば、みなさんが抱くような「痛み」「苦しみ」はほとんどありません。どうか妄想を膨らませて不必要に恐れないでほしいと思います」と話します。末期を除くと、闘病に強い痛みを伴わないそうです。

 もちろん、体の中にある組織の一部を切除したり、開腹手術をしたりするわけですから、手術後に麻酔が切れれば少なからず痛みます。しかし、森山先生によると、「がんの手術後に伴う痛みは『七転八倒』する強い痛みではなく、せいぜい『二転三倒』ぐらいといえばいいでしょうか。それ以下の痛みで済むこともあります」。

 「手術を終えた翌日、恐る恐るではありますが、多くの患者がちょっと前屈みで病院内を歩いています。大きなくしゃみをすれば、傷口に響いて痛みが走るでしょうが、普通に呼吸して静かに会話をするぶんには何も気にならないはず。これががんの手術を受けた患者のごく平均的な姿です」(森山先生)

 もしもがんで最期を迎えるときも、「七転八倒する中で壮絶な最期を遂げるようなイメージがあるようですが、こうしたケースはむしろ稀です。もしも、『医療的にがんをこれ以上、抑える手立てがない』との判断が下されたとすれば、医師は痛くない、つらくない、苦しくない…といった療養の方向を模索していきます。強い麻酔を投与して意識レベルを下げ、痛みを感じさせなくする選択を取ることもあります」(森山先生)

 「現代の医療では、がんを完治させること目指しながら、患者の身体的な『痛み』『苦しみ』のない治療も実現しようとしていることを、改めて知って頂けたらと思います」(森山先生)

 がん治療の「痛み」「つらさ」の誤解については、以下の記事をご覧ください。

がんと治療は「痛くてつらい」という誤解

4. 「〇〇を食べればがんは防げる」は大概が“まゆつば”

 「先生、がんにならないためには、どうしたらいいのでしょうか」――。

 検査で「異常なし」との結果を知ったこうした患者さんは、安堵の表情を浮かべた後に、異口同音にこう口にするそうです。そんなとき森山先生は「絶対にがんにならない方法はありません」と伝えています。ただし、「がんになる可能性は誰にでもありますが、統計的に見て、がんになるリスクをある程度下げられる方法ならあります」とも付け加えるそうです。

 国立がん研究センター研究所では、「がんを防ぐための新12か条」を公表しています(下表参照)。私たちが普段の生活で気を付けられる「食事」「嗜好品」「運動」「感染予防」への取り組みなど、まるで生活習慣病を予防するかのような方法が推奨されています。

がんを防ぐための新12か条
 1条 たばこは吸わない
 2条 他人のたばこの煙をできるだけ避ける
 3条 お酒はほどほどに
 4条 バランスのとれた食生活を
 5条 塩辛い食品は控えめに
 6条 野菜や果物は豊富に
 7条 適度に運動
 8条 適切な体重維持
 9条 ウイルスや細菌の感染予防と治療
10条 定期的ながん検診を
11条 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
12条 正しいがん情報でがんを知ることから
出典: 国立がん研究センター研究所

 世の中には、「これを食べるとがんになる」「あれを食べればがんは防げる」といった情報が流布することがあります。しかし、これらのほとんどは、医学的なエビデンスが乏しいと森山先生は話します。「唯一、『生野菜を摂る』『塩分を控える』といった食習慣が、がんのリスクを下げることは研究データで証明されていますが、それ以外はわからないことばかりなのが実情です」(森山先生)

 では、どうしてバランスのとれた食事を推奨しているのでしょうか。それは「日常的に口にしている食べ物の中に発がん性物質が含まれている可能性があり、そうした特定の食材を過剰に摂取しないよう、様々なものを食べながらリスクを分散させることを目的としているのです」(森山先生)。これら新12カ条を心がけていたとしても、「がんにはならない」とは言えません。その一方で、どれだけ不摂生を続けていたとしても、がんにならない人もいます。現時点では「リスクが高くなること」を極力排除していくしか手立てはありません。

 このほか、「がんになるリスクを下げる生活習慣とその誤解」については、以下の記事をご覧ください。

「絶対にがんにならない方法はありません」

 ここでは、森山紀之の「拝啓 これからがんになる皆様へ」から、がんの予防や治療で知っておくべき「誤解」や「落とし穴」についての記事をご紹介しました。このほかの有料会員向けの記事については「有料会員向け記事のご紹介」をご覧ください。

森山紀之(もりやまのりゆき)
ミッドタウンクリニック 理事
森山紀之(もりやまのりゆき) 1947年、和歌山県生まれ。千葉大学医学部卒。1976年に国立がんセンター放射線診断部に入局。同センターのがん予防・検診研究センター長を経て、現職。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発に携わり、早期がんの発見に貢献。2005年に高松宮妃癌研究基金学術賞、2007年に朝日がん大賞を受賞。主な著書に「がんはどこまで治せるのか」(徳間書店)。 東京ミッドタウン先端医療研究所(http://www.midtown-amc.jp)