「健康より経済」がローファット神話を生んだ
1977年のマクガバン・レポートはいかに歪められたか
白澤卓二=日本ファンクショナルダイエット協会理事長
2015年、米国そして日本で、食事中のコレステロール摂取制限が撤廃された。油の摂取制限にも、明確な科学的根拠がないという。これまで私たちが信じてきた「油=控えるべき」という“神話”は、なぜ生まれ、どうして覆されたのか。日本ファンクショナルダイエット協会理事長で医師の白澤卓二さんに、日経Goodayセンター長の藤井省吾がインタビューした。
不飽和脂肪酸の全てがヘルシーではない
2015年2月に米国で、食事中のコレステロール摂取制限が撤廃され、わが国の「日本人の食事摂取基準」もこれに追従する形でコレステロール摂取目標量を撤廃した、ということが、健康に関心が高い人の間で話題になっています。実は、コレステロールだけでなく、油についても摂取量に制限がなくなろうとしているそうですね。私たちはこれまで「油=控えるべき」と、ずっと教えられてきたのですが。
白澤 米国では、1960年代に、動物性食品に多い飽和脂肪酸は心臓病の危険因子であり、控えるべきであるという提言がなされました。飽和脂肪酸に悪者のレッテルが貼られたかわりに、積極的にとるべきとされたのが不飽和脂肪酸です。
ところが、不飽和脂肪酸にはオメガ3、オメガ6、オメガ9の3種類があり、実際に摂取量がぐんと伸びたのがオメガ6の脂肪酸、つまり大豆油やコーン油などの植物油でした。これらは加工食品やマーガリンとして生活に溶け込んだ。ところが2015年の7月に、実は大豆油は果糖よりも肥満や糖尿病を促進する、というマウスでの研究結果が、米国カリフォルニア大学の研究チームによって発表されました(PLoS One;Jul 22;10(7):e0132672,2015)。
この研究では、大豆油によって糖尿病や肥満になる遺伝子が発現したことも突き止められている。健康にいいとされてきたサラダ油が体に悪さをする、という動かぬ証拠が出た、と受け止めています。
油についての、いい・悪いがここまで混乱してきた理由は40年前の米国の研究レポートにさかのぼるそうですね。そこには、大きな問題があったと。
白澤 根深い問題があったのです。1977年に、がんや生活習慣病は肉や砂糖、食塩のとりすぎが原因の“食原病”である、とするマクガバン・レポートがまとめられました。しかし、畜産業界と砂糖業界は猛抗議し、委員会メンバーは酪農協会などからたくさん研究費を受け取っている教授で入れ替わり、10カ月後には大幅に改定された。国民の健康よりも経済が優先されたということです。