「ローファットよりロカボ」のエビデンス
メタボを解消、アンチエイジングにも効く「ロカボ」の威力
山田 悟=食・楽・健康協会代表理事
食事における油の摂取比率を減らす「ローファット」という考え方が、この10年でゆらぎ、代わって糖質の摂取比率を減らす「ロカボ」(ローカーボ、糖質制限)という食事摂取指針が台頭している。なぜローファットよりロカボなのか? その根拠となる研究データや具体的な食事法について、糖尿病患者の食事療法に長年取り組んできた糖尿病専門医で食・楽・健康協会代表理事の山田悟さんに、日経Goodayセンター長の藤井省吾がインタビューした。
「ローファット」では体重も病気も減らない
「健康のために油や脂肪のとりすぎは控えましょう」と、教えられてきました。ところが、脂肪を減らすローファットの食べ方がダイエットや病気予防につながっていないことが明らかになってきたそうですね。
山田 そうなんです。今、栄養学が大きく変わろうとしています。そもそも1958年に開始されたアンセル・キーズによる7カ国の栄養摂取と心臓病による死亡率の関連を調べた研究において、油の摂取量の多さが心臓病死と関連する、という結果が導かれたこと、そしてその結果がデータとしてあまりにもきれいだったことから、検証が行われずほぼ事実と認定されたのが問題でした。
その後、1977年のマクガバン・レポートによって「米国人は食事における油の摂取比率を減らすべき」という指針が国会で承認され、アメリカ人はどんどん油を減らそう、とメディアもビジネス現場も動きました。しかし、油の摂取量が減る一方でたんぱく質摂取量は変わらず、糖質摂取量ばかりが増え、肥満と糖尿病が増加しました。
そこで「油を控えるのは果たして正解か」という見直しの運動がこの10年ほど行われているのです。その結果、「油を控えることは血液中の中性脂肪を下げるのに有益ではない」(Circulation;123, 2292-2333, 2011)、「油を減らす介入試験を行ってもがんや心臓病による死亡率は減らない」(Open Heart;2, e000196, 2015)、といった報告が続いています。反対に「糖質制限を行うと肥満や血中脂質、糖尿病、高血圧などが改善する」(Obes Rev;13, 1048-1066, 2012)という報告も集まりつつあります。
驚きですね。動物性の飽和脂肪酸はよくないから、お肉を食べるときには脂身はよけるのがヘルシーだ、と考えてきましたから。
山田 食べる油の量が多いと血液中の中性脂肪も高くなる、という思い込みゆえなのですが、実はその逆で、食事で摂取する脂質が高い人ほど中性脂肪が下がる、という研究報告もあります。