冬の定番「吸湿発熱素材」、使い方誤るとかえって冷える?
シーンに応じた素材選びのコツ
塚越小枝子=フリーライター
前回「手足の冷えのカギ握る「AVA血管」、調節のコツは?」では、寒さや暑さなどの環境に応じてAVA(Arteriovenous Anastomoses)という特殊な血管が拡張・収縮して、体温調節に貢献していることをお伝えした。AVAの仕組みに合わせた衣服選びをすれば効果的に冷えを防ぐことができそうだが、冬の定番といっていい「吸湿発熱素材」を使った衣類は、使い方を誤るとかえって冷えを助長することもあるので注意が必要だ。いくつかの素材の特徴とシーンに応じた素材選びのコツについて神戸女子大学教授の平田耕造さんに聞いた。
「吸湿発熱素材」は汗のかき過ぎに注意

寒い季節になると、吸湿発熱をうたった素材でできたシャツや靴下などの衣類が手放せない人も多いのではないだろうか。
吸湿発熱素材とは水蒸気が繊維表面に吸着されて、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて生じる「吸着熱」という現象を利用したもので、私たちの体から発せられる不感蒸散(発汗とは別に、自覚しないまま皮膚から蒸散する水分のこと)や汗の水蒸気を吸って発熱する機能的な素材だ。一般的な化学繊維より細い繊維にすることで全体の表面積を増やし、より湿気を取り込みやすく、熱を放出しやすくしている。各社の製品にはレーヨンが多いもの、アクリルが多いものなど繊維の組成や、織り方や編み方などの製法に違いがあり、それぞれの特色を出している。
ただし、吸湿発熱素材は、汗をかき過ぎるとかえって体を冷やし、マイナスに働くこともあるという。
「吸湿発熱素材は、冷えて困っているときにその状態を快適に戻す点で重要な働きをします。ところが快適と感じる状態よりも温度が上がって汗をかいてしまうと、発熱量が多くなり過ぎるため、かえって暑くなります。その後、ぬれた皮膚や繊維から水分が短時間に多量に蒸発するときに気化熱で体が冷やされてしまうので、それを防ぐ必要があります」と平田さんは言う。
「綿」も水分を吸うと熱が発生
綿などの一般的な素材でも吸湿するときに熱が発生する。綿100%のシャツとポリエステル100%のシャツ(同じ熱伝導率、熱伝達率に作ったもの)を比較し、吸湿性と衣服の快適性を調べた平田さんらの実験によると、環境の湿度が50%から90%に上がると、ポリエステルは大きな変化がないのに対して綿は表面温度が急激に上がることが分かった[図1(*1)]。人が着用した実験では、衣服の表面温度も皮膚血流量も、発汗するまでは素材による違いはないが、発汗が始まると綿のほうがどちらの数値も高くなった[図2(*1)]。
「発汗しない条件下では吸湿性が高い綿のほうが快適ですが、発汗する条件になると綿の場合、吸湿により熱が発生し、熱が蓄積されるため皮膚の血流が増えて皮膚温も上がり、不快に転じてしまうのです」(平田さん)
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