日本の高齢者は若返っている! 抗老化研究の最前線
『「100年ライフ」のサイエンス』監修者・樂木宏実さんに聞く
江田憲治=日経BP総合研究所メデイカル・ヘルスラボ
「人生100年時代と言うけれど、本当にそんな時代は来るのだろうか?」「そもそも人は何歳まで生きることが可能で、健康寿命はどこまで延ばすことができるのだろう?」――。こんな疑問を持っている人は多いはずだ。その鍵を握るのが、エイジング研究の進展。老化の仕組みが明らかになりつつあり、革新的な“制御法”の研究が進められているという。抗老化の最前線を追った書籍『「100年ライフ」のサイエンス』の監修者、大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(老年・総合内科学)の樂木宏実教授に、「30代から始める老化制御法」を聞いた。
日本の高齢者が若返っている客観的な証拠
リンダ・グラットン氏の書籍『ライフ・シフト』が世界的なベストセラーになって以来、「人生100年時代」という言葉がよく使われるようになりました(日本では2016年に発刊)。長年、老年医療に携わってきた樂木先生は、「人生100年時代」の可能性をどう見ていますか。

樂木 私が医師として働きだした36年前、1980年代半ばの80歳は、“随分と高齢”だった記憶がありますが、最近の高齢者は本当にお元気な方が増えています。体の強さや健康観は時代によって変わるため、遠い将来のことは分かりませんが、今の50歳から60歳代やその前後の世代は、十分に100年ライフを目指せる環境にあると見ています。
現在、約8万人の日本の100歳以上人口は、2050年に50万人を超えるとの推計がありますが、これに違和感はありません。
100年ライフで課題となるのが、健康寿命の延伸です。2016年時点の平均寿命と健康寿命の差は、男性が約9年(平均寿命=約81歳、健康寿命=約72歳)、女性が約12年(平均寿命=約87歳、健康寿命=約75歳)で、これが「健康上の理由で日常生活が制限される期間」です。このギャップを埋めていくことが、今後ますます重要になるのだと思います。
ギャップを埋めることはできるのでしょうか?
樂木 健康寿命の延伸について、良いエビデンスから紹介しましょう。日本人高齢者は体力的に若返っているというデータがあるのです。図1は1992年と2017年の歩行速度を男女別、年代別に示したものですが、2017年の85歳以上男性の速度を見ると1992年の75歳以上レベル、女性は65歳以上レベルになっているのが分かります。つまりこの25年で、男性は10歳、女性は20歳ほど若返ったと見ることができるのです。
こうした傾向は、健康状態や知的能力においても見られており、現在の高齢者は10年前と比べも、総じて5~10歳若返っていることが分かっています。
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