日々の食生活で対策を
中には、短期間のビフィズス菌摂取が認知機能維持に有効という点を意外と思う人もいるかもしれないが、伊賀瀬先生は、「私も、食品によって認知機能が維持されるということはあると思っています」という。
そもそも、食事は血圧や血糖値といった生活習慣による健康リスクとの関係が深い。「2020年に、『Lancet』という医学雑誌が認知機能低下の予防・介入に関する複数の研究をまとめた報告書によると、認知症につながるリスク因子の40%は、喫煙や飲酒、運動不足、糖尿病など、生活習慣の改善で修正可能とのことでした」(伊賀瀬先生)。

「血圧の値と認知機能低下のリスクの相関は、すでに医療の現場では常識ですが、その2つをつなぐのは、血管の老化や炎症ではないかと考えています。私たちが抗加齢予防医療センターに来た患者さんを対象に行った調査でも、MCIの人はそうでない人に比べて脳血管が傷んでいることが確認されています。肥満、大量飲酒、喫煙、血糖値の上昇も、全て血管を傷める要因です。
食事では、糖質をとりすぎないことはもちろんのこと、野菜から食べる『ベジタブルファースト』を実践するなど、血糖値が急激に上がらないように食べるといいでしょう。ビフィズス菌MCC1274の認知機能維持作用は、直近1~3カ月の血糖値を反映するHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の変動との相関が確認されているとのことなので、血管を守る側面からも役立っているかもしれません。
運動ならウォーキングや軽いジョギングなど、心拍数が上がりすぎない有酸素運動がいいと思います。有酸素運動には、認知機能と深い関わりのある脳の海馬を増やす働きがあるんです」(伊賀瀬先生)
認知機能の低下はある日いきなり訪れるものではなく、気がつかないうちに忍び寄っている。20年、30年といった長い年月をかけて進む血管の老化や脳内の老廃物の蓄積は、40歳代には始まるとも。まだ若いから大丈夫と油断するのではなく、日々の食事を意識し、今からでも、血糖値を上げにくい食事や、ビフィズス菌入りのヨーグルトなどをうまく生活に取り入れて対策していこう。
グラフ作成/増田真一
愛媛大学医学部附属病院 抗加齢予防医療センター長
愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授

森永乳業 研究本部 基礎研究所長
