認知機能維持に役立つビフィズス菌が登場
そんな中、認知機能対策に役立つと注目を集めているビフィズス菌がある。森永乳業の50年以上にわたるビフィズス菌研究の中から見いだされたビフィズス菌MCC1274という菌だ。MCIの疑いがある高齢者を対象に行った試験で、ビフィズス菌MCC1274を継続的にとることで、加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力・空間認識力の維持に役立つことが確認されたという。
開発に携わった同社研究本部基礎研究所長の清水金忠氏は、「認知機能がどの程度低下しているか評価するアーバンス(RBANS)神経心理テストを行ったところ、ビフィズス菌MCC1274を毎日とった群では、試験前に比べ『記憶力』と『空間認識力』などのスコアの上昇が見られました」と説明する。

試験は、50歳以上、80歳未満のMCIの疑いがある被験者80人を対象に、16週間ビフィズス菌MCC1274またはプラセボ(偽成分)をとる群(対照群)で効果を比較したもの。「この菌には期待はしていたものの、被験者本人もどちらをとっているかわからない二重盲検という厳しい基準に基づく試験を行ったので、まさかここまでの効果が出るとは思っていませんでした。結果を見たときは、正直驚きを隠せなかったです」と清水所長。
この驚きの研究結果は、海外の科学雑誌に論文が受理されたのち、認知機能研究の世界的権威となる情報サイトにも、認知機能に効果が確認された唯一のプロバイオティクス素材として紹介されたという。
ビフィズス菌が脳に効く「脳腸相関」
しかし、ビフィズス菌といえばお腹にいい菌。なぜ、近いとはいえない脳がフィールドである認知機能に関与するのだろうか。
ビフィズス菌は、糖をエサに酢酸という殺菌作用などもある酸を作るという特徴を持ち、お腹の中にビフィズス菌が多くいると、大腸内で酢酸が増え、腸の動きが良くなったり、有害な菌が腸の中で増えにくくなるなど腸内環境が整いやすくなることが知られている。ビフィズス菌入りヨーグルトがお腹にいいとされるのはそのためだ。
森永乳業は、さらに、菌の種類(菌株)によって整腸作用以外の作用を持つものがあることも見いだしてきた。そのひとつがこのビフィズス菌MCC1274の認知機能維持作用だ。
「ビフィズス菌MCC1274が認知機能の維持に役立つメカニズムはまだ明らかにはなっていないのですが、おそらく、脳腸相関と呼ばれる、腸と脳の連関の結果、認知機能に影響するのだと考えています」と清水所長。
「人の大腸には約1000種、40兆個ともいわれる腸内細菌が存在し、この細菌の数やバランスが、肥満や糖尿病、認知症など全身の健康と関係することが、近年、世界中の研究から明らかになってきました。中でも、脳と腸は血液やホルモン、免疫系や神経系統を介して影響を及ぼし合う『脳腸相関』と呼ばれる密接な関係にあることがわかっています」(清水所長)。国立長寿医療研究センターの研究でも、認知機能の低下が見られる人と、そうでない人の間には、腸内細菌の組成に違いがあるという脳腸相関に関する報告がされ、さらなる研究が続けられている。

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