30代から40代は要注意! これがうつや自殺の実態
知っておきたい過労死の実態と防止策(中)
田村知子=フリーランスエディター
2017年は過労による突然死や自殺の報道が相次ぎ話題になった。過重労働(長時間労働)は心身にどのような影響を及ぼし、どのような状態になると過労死のリスクが高まるのか。危険を察知したとき、本人や家族、職場の人間はどう対処すべきか。過労死の実態や要因などについて調査研究を進めている労働安全衛生総合研究所過労死等調査研究センター統括研究員の吉川徹さんにお話を伺った。
自殺事案では9割以上が男性

前回記事「過労による突然死が40~50代男性に多いのはなぜ?」では過労死の現状や、脳血管疾患・心臓疾患によるいわゆる突然死について伺いました。今回は、うつなどの精神障害により自死(自殺)するケースについて伺います。現在、死亡には至らないケースも含めて労災認定された過労死等の割合は、脳・心臓疾患が4割、精神障害・自死が6割で、精神障害・自死のほうは増加傾向が見られるとのことでしたね。
吉川 平成29年(2017年)版の「過労死等防止対策白書」(*1)によれば、精神障害に関わる請求件数は2000年には212件でしたが、2016年には1586件となっています。支給決定件数のほうも、2000年には36件だったのに対し、2016年では約500件にまで増加。支給決定件数のうち自殺(未遂を含む)については、2000年は19件で、2016年では84件となっています。
精神障害・自死の事案が増加している背景には、どんな要因が考えられるのでしょうか。
吉川 1つには、労災認定の基準となる精神障害の中でも、気分(感情)障害をはじめとするうつ病と診断される方が増えていることがベースにあると思います。うつ病といってもその病態や症状は様々で、かつては診断が容易ではありませんでした。それが2000年以降、アメリカ精神医学会やWHO(世界保健機関)が作成した国際的な分類や診断基準が用いられるようになってきたことで、うつ病と診断がつくケースが増加。請求件数と支給決定件数が増加している背景になっていると考えられます。
また、これは私見になりますが、職場のコミュニケーションや人間関係の悩みなどからうつ状態に陥るケースも増えていると感じます。パソコンが普及してから社内や部署内でもメールなどで連絡を取ることが多くなり、人と人との顔をつきあわせたコミュニケーションが希薄になっています。そうした中で食い違いや誤解が生じるなど、お互いの認識のギャップが以前より大きくなり、心の病につながりやすい状況があるのかもしれません。
脳・心臓疾患事案は40~50代の男性に多いということでしたが、精神障害事案についても、年齢や性別による傾向はありますか。
吉川 脳・心臓疾患の場合は男性が9割以上を占めていますが、精神障害は1997件の総数のうち女性が625件で、約3割が女性です。ただし、自殺事案で見ると368件の総数のうち女性は16人にとどまり、9割以上が男性です。
発症時の年齢は男女ともに30~39歳が最も多く、自殺事案では男性は40~49歳、女性は29歳以下が多くなっています。
長時間労働、セクハラなど男女で異なるきっかけ
脳・心臓疾患の労災認定では、業務による明らかな過重負荷として3つの要件が定められていますが、精神障害にも労災認定のための要件はありますか。
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