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手足の冷えのカギ握る「AVA血管」、調節のコツは?

襟元の開口部は閉じ、広い面積の温度を上げる

 塚越小枝子=フリーライター

 今年も寒い冬が近づいてきた。私たちの体は、寒いと血管が収縮して手足が冷たくなり、やがてガタガタと震えを起こして熱を作り出そうとする。これは誰にでも起こる生理的反応だが、このとき、皮膚が寒さを感じると真っ先に収縮して体温調節に貢献する特別な血管がある。「動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう:Arteriovenous Anastomoses、以下AVA)」と呼ばれる血管だ。AVAの仕組みを知って、冷えを防ぐには? 神戸女子大学教授の平田耕造さんに聞いた。

襟元や手首、足首の開口部をしっかり閉じるのは大きなポイントのようです。(c)Ekaterina Taraikovskaia-123rf

体温調節を担う血管、AVAとは?

 通常、心臓から送り出された血流は、動脈の太い血管から末梢の毛細血管まで及び、静脈を通って心臓に戻っていくが、毛細血管に枝分かれする前の動脈と、静脈とを直接つなぐやや太い血管がAVAだ(図1)。

【図1】AVA(Arteriovenous Anastomoses:動静脈吻合)とは
(平田さんの資料を基に作成)
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 AVAは、皮膚では手足の末端、顔の一部だけに存在する特殊な血管だ(図2)。手の場合、甲側ではなく、手のひら側にあり、足では足裏と指、顔では耳、まぶた、鼻、唇と、皮膚の薄い末梢に多く、皮膚表面から約1mmと毛細血管より少し深いところに1平方センチ当たり100~600個存在する。拡張したときの直径は毛細血管の約10倍。つまり、流体力学の法則から流れる血流量は1万倍にもなる。一方で、完全に閉じると血流量はゼロになる。

【図2】手足の末端部分と顔にはAVAがある
(平田さんの資料を基に作成)
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 AVAと体温調節について研究をしている平田さんは、AVAの役割について、次のように話す。

 「全身にある毛細血管は細胞に酸素や栄養を運ぶのが役割ですが、AVAにはそうした役割はありません。AVAは体温調節が仕事で、拡張して胴体部分から、熱を奪われやすい末端部分へ熱を運ぶことができるように、末端に多く存在しています。ただし、寒さが強くなると、AVAは収縮して末梢への血流を減らし、そこから熱が逃げるのを防ぎます。脳や心臓など生命維持に必要な体の中心部の温度を保つことを優先するためです」

 そもそも腕のように胴体から飛び出したところや手足の指、鼻、耳のように凹凸があるところは、容積に対する表面積の割合が大きいため、広い面積から多量の熱が空気中に放散されて冷えやすい。そのときにAVAが開いていると体の熱が手足の血流を通じてどんどん奪われてしまう。そんな事態を防ぐため、寒いときにはAVAが収縮して末端への血流を減少させることで、体の熱が手や足を通じて逃げるのを防ぐのだ。冬に手先や足先が冷えて困るのは、それらの部位を犠牲にしてでも命を守るための生物としての賢い反応だったのだ。

 さらに、動脈からAVAに入り、そこを通過した血流は、静脈を通る間にも、腕全体から熱を逃がすなどしながら心臓に戻り、体温を調節していることも分かっている。

 「暑いときは皮膚表面に近い静脈を通って積極的に熱を逃がしながら戻り、寒いときには動脈と接する深部にある静脈を通ることで、動脈の熱をもらいながら温まった血液が心臓に戻ることで、うまく体温を調節しています」(平田さん)

 AVAは全身の体温調節のトータルバランスの中で、快適な温度より暑ければ開き、寒ければ閉じるという。私たちが意識しないところで微妙な感覚を感じ取り、体温を緻密にコントロールしているのだ。

AVAの反応には個人差がある

 AVAの収縮・拡張の反応性の違いには個人差があり、冷え症の人とそうでない人の差につながる。

 「実験をしてみると、冷え症だと自覚する人は反応性が高く、誰もが温かいと感じる温度から少し低くなっただけでも寒いと訴え、実際に血流を測ってみると早い段階からAVAの収縮反応が起こり、血流が低下することが分かりました」(平田さん)

 同じ温度でも、人によって収縮が起こる段階に個人差があるというわけだ。この個人差の要因としては様々なものが考えられるが、腕や指、足が細く長いといった体格(容積の割に表面積がどれだけ大きいか)と、皮下脂肪や筋肉の量が大きな要因を占めるという。

 平田さんによれば、「皮下脂肪は断熱材」。皮下脂肪が多いと熱がなかなか逃げていかないので、AVAが拡張し、手足など末端の血流を増やしてそこから熱を逃がそうとする。そのため脂肪の多い人は手が温かい傾向がある。逆に脂肪が少なくやせている人は、もともと胴体から逃げていく熱量が多いため、わざわざ手足に血流を増やす必要がなく、少し温度が下がっただけでAVAが閉じるため手足が冷えやすいのだという(図3)。

【図3】皮下脂肪の熱放散への影響
(平田さんの資料を基に作成)
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 「体格などの要因に加えて、服装との組み合わせで冷えを感じるかどうかは変わってきます。毛皮で覆われている動物と違って、人間は衣服で調節することができますから、自分の体形では何度くらいのときにAVAが開閉するのか(手足の冷えを感じるのか)を意識して、服装をうまく工夫してみてください」(平田さん)

首元から全身を温め、AVAの収縮を防ごう

 AVAの働きをうまく活用して、その収縮を抑えるようにすれば冷えを効果的に防ぐことができそうだ。あくまでも全身の体温調節のトータルバランスの中で開閉するAVAは、手先などを部分的に温めても開かないため、全身の体温をいかに効率よく上げるかを考えるとよいそうだ。具体的なポイントは次の通り。

1 首をマフラーなどで温める

 皮膚には冷たさを感じる「冷点(れいてん)」というものが存在するが、全身の中でもその分布密度が多く、感度が高いのは「首」や「顔」。太ももを1とすると顔・首は3倍くらい感度が高いという。顔を覆うのは難しいが、「首元をマフラーなどで温める、マスクをするなどは効果的」(平田さん)だ。

 実験によると、最初は手袋だけしていても手の血流はそれほど変わらないが、マフラーを加えると手のひら側で急激に血流量が増えることが分かった(図4)。

【図4】マフラーで手の血流がアップ
(平田さんの未発表実験データより)
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2 襟元の開口部は閉じる

 襟元と下部を開けていると、下から入った空気が上に抜ける「煙突効果」で冷えやすい。下部を閉じていても、上から入って温まった空気がまた抜けてしまい胸や背中などの温度も下がる。そのため、襟元のボタンは閉じる、タートルネックの服を着る、手首や足首も覆って空気の出入り口(開口部)を塞ぐほうが効率的に温まる。Vネックなど開口部が広い衣服の場合はマフラーなど首に巻くものでおしゃれと保温を両立させたい。

3 広い面積の温度を上げる

 前述したように襟元を閉じるなどすれば胸やおなか、背中など広い面積で皮膚の温度が高くなる。「たとえ0.1度でも広い面積で温度が上がれば、脳の体温調節中枢に『もう十分温まった』という情報が伝わり、AVAが開き始める」(平田さん)

4 手はカイロよりも手袋

 手を温める場合は、カイロなどで局所的に温めるよりも手袋で手全体を覆うほうが、全体の表面積の5%に相当するので効果的だ。

5 手袋・靴下こそ吸湿発熱素材

 手のひら、足の裏は不感蒸散(私たちが感じることなく皮膚から蒸散する水分量)が他の皮膚よりずっと多いので、吸湿発熱素材(吸湿量に比例して発熱量が多くなる素材)でできた手袋や靴下がより有効。手袋や靴下だけでなく吸湿発熱素材のシャツも有効だが、暖房のきいた室内などでは人によっては汗をかいてシャツが湿り、その汗が乾いて蒸発するときに体温を奪われて冷え過ぎることがあるので注意が必要だ(詳しくは第2回にお伝えする)。

6 重ね着をして空気の層をまとう

 衣服の保温性は、繊維と繊維の間にどれだけ温まった空気があるかによっても左右される。どんなに薄い繊維でも空気より熱の伝導度は高いため、1枚、2枚と重ね着するほど、間の空気層も厚くなり、より温かい。

【図5】「隙間」を塞げば、熱は逃げない!
(イラスト:平井さくら)
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 効率的に皮膚温を上げ、皮膚周辺の熱を逃がさないことが冷え対策のポイントだ。自分の体形やライフスタイルではAVAがどのように働くかを意識して、うまく衣服を調節し、この冬の寒さを乗り切ろう。

【冷水浴びをすると冷えに強くなるのは本当だった】

 冬場に冷水で洗い物などをしていると、最初は冷たくて痛いと感じるが、そのうちに感じなくなって逆にポカポカしてきた経験はないだろうか。10度以下で痛みを伴うほどの厳しい冷たさになると、凍傷になるのを防ぎつつ、体温も維持するために、AVA血管はあるレベルで開閉をくり返す。これが「寒冷血管拡張反応」だ。

 この反応には民族による違いもあり、日常で厳しい寒冷刺激にさらされているイヌイットの人々は反応性が高く、痛いと感じる前にこの反応が起こるという。逆に熱帯育ちで寒さをほとんど体験しない民族は同じ条件でテストしても数十分間ずっと痛いままで、この反応が起こらない。人間の体は環境に適応するのだ。

 「子どもの頃から寒冷刺激にさらされている人は、寒さに強くなることも十分に考えられます」(平田さん)

 ただし、人によっては寒冷刺激を避けたほうがいい場合もあるので、無理は禁物。「首を温める」「開口部を塞ぐ」といった上に挙げたような方法で寒さを防ごう。


平田耕造(ひらた こうぞう)さん
神戸女子大学家政学部教授 医学博士
平田耕造(ひらた こうぞう)さん 東京学芸大学大学院修了後、金沢大学医学部生理学第一講座助手、講師を経て1989年4月から神戸女子大学家政学部助教授、93年から教授、2013年4月から副学長。専門は環境生理学。気象条件の急変や室温差に対し、衣服はポータブルな快適環境を作るもの。衣服内や皮膚の温湿度・皮膚血流や発汗等を指標として、特に皮膚の動静脈吻合(AVA)血流に注目して研究に取り組む。