最近耳にする「肺MAC症」ってどんな病気?
中高年女性に急増中、治りにくいやっかいな呼吸器感染症
倉沢正樹=日経メディカル前編集長
進行は遅いが放置すると命の危険も
肺MAC症にかかると、病気はどのように進行していくのですか。

月単位で進行していくことはなくて、「年単位で見ると以前より悪くなったな」という感じで緩やかに進行していくのが特徴です。だんだんと咳や痰が多くなってきて、特に痰が長引きます。何もしないで放っておくと、肺のあちこちに病巣ができて、徐々に呼吸が苦しくなったり熱が出てきたりします。場合によっては命の危険を招くこともあります。
そういう意味では早期の治療が必要ということですね。
ええ。ただ治療の前に、まずは診断を確実にすることが必要です。診断をつける際に大事なのは、痰の検査で菌を見つけることです。肺MAC症の原因となる菌は水や土の中にもいるので、たまたま1回検出されたからといって、すぐこの病気だとは判断できません。そのため間隔を置いて2回、痰の検査をして、いずれも菌が検出された場合に肺MAC症と診断しましょうというのが国際的な基準になっています。
肺MAC症と診断されたらX線写真やCTで肺の状態を見て、直ちに治療が必要かどうかを判断します。病気のせいで肺に大きな空洞があるようならすぐ治療に取りかかりますが、肺に大きな影がなくて症状も穏やかな状態であれば、しばらく様子を見ることもあります。人から人へはうつらないので、慌てる必要はないわけですね。
治療が必要な場合は、どのような治療を行うのでしょうか。
標準的には3種類の薬を同時に飲んでいただく治療をします。残念ながら1種類だけで効く薬はまだないので、いろいろな薬を使って治療していくことになります。その点は結核の治療と同様なのですが、肺MAC症の治療は結核よりも長引くことが多いですね。
結核の治療では、3種類の薬を6カ月使えば、ほとんどの場合は治ります。でも肺MAC症の場合、3種類の薬を飲んでも6カ月で治すことはできません。症状を改善して肺の状態を良くするには、最低でも1年以上の内服治療が必要です。1年半とか2年とか、それ以上かかることも多いやっかいな病気です。
肺MAC症は呼吸器感染症ですが、新型コロナウイルス感染症との関連について分かっていることはありますか。
これはまだよく分かっていません。数は少ないですが、私たちが診ている肺MAC症患者さんの中にも新型コロナにかかった人はいます。でも新型コロナにかかったからといって、肺MAC症の状態が直ちに悪化したようなケースは経験していません。
24時間風呂の使用や翌日の追い炊きは避ける
最後に、肺MAC症の予防について伺います。感染を避けるために気をつけるべきことはありますか。
先ほど24時間風呂の話をしましたが、これは避けた方がいいです。また、最近は追い炊き機能が付いた風呂も増えていますが、いったん沸かした湯を翌日に追い炊きすることも避けるべきです。湯に含まれる菌が倍以上に増えることは確かですから。
海外ではシャワーヘッドの菌にも注意すべきだという報告もありますが、日本ではあまり報告がありません。シャワーの利用頻度の違いからくるのかもしれませんが、そこに神経質になる必要はないように思います。
土ぼこりから感染するという話もありましたが、その面で気をつけた方がいいことがあれば教えてください。
園芸のときの土の扱いには注意した方がいいと言われていますので、土ぼこりを吸わないようにするなどの配慮は必要でしょう。
肺MAC症の予防にマスクは効果がありますか。
もちろん一定の効果はあると思いますが、どの程度の効果があるかについては何とも言えません。肺MAC症は、感染してから症状が出てくるまでに1年とか2年とか長い年月がかかるからです。そういう意味では肺MAC症は、治療もさることながら、予防も難しいタイプの病気と言えるだろうと思います。この記事をお読みになった方が、肺MAC症に関する正しい認識を持っていただければ幸いです。
