最近耳にする「肺MAC症」ってどんな病気?
中高年女性に急増中、治りにくいやっかいな呼吸器感染症
倉沢正樹=日経メディカル前編集長
結核に似た症状を引き起こすが、命に関わることはまれで、人から人にうつることもない。その半面、治療に2年近くを要するなど結核よりも治りにくい──。そんなやっかいな病気である「肺MAC症」が近年、中高年女性を中心に急増している。長年この病気の治療に携わってきた結核予防会複十字病院の倉島篤行氏に、肺MAC症の特徴と予防法を伺った。

これまであまりなじみはなかったのですが、医療関係者だけでなく一般の人の間でも、最近になって「肺MAC(マック)症」という病名を聞く機会が増えているようです。肺MAC症とは、どういう病気なのでしょうか。
肺MAC症は、あまり症状は強くないけれど、なかなか退治しにくい菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。MACというのは菌の名前(*1)で、分類上は結核菌の親戚に当たるのですが、肺MAC症には結核ほどの命の危険はありませんし、人から人にうつることもありません。ただし、一度発病すると治療が長引くことが非常に多い病気です。症状が強く出ないので、感染に気付くのが遅れてしまうこともよくあります。
どういうきっかけで感染が発覚することが多いのでしょうか。
一番は長引く咳や痰ですね。結核のように発熱することは少なく、あっても微熱が出る程度でしょうか。意外に多いのが、痰に血が混じる血痰です。また、人間ドックなどの検診で肺に影が見つかり、詳しく調べてみたら肺MAC症だったというケースも多いですね。病気が進行してくると、疲労感やだるさなどの症状も出てきます。
肺MAC症は人から人にはうつらないということですが、どういう経路で感染するのですか。
環境からうつると言われていまして、具体的には水や土などが関係しています。例えば、感染経路が確認されている例には、湯温が常に保たれている24時間風呂があります。そのような環境で増えた菌が、体内に入り込んで感染するわけです。また、園芸などの際に土ぼこりを吸い込み、その中にいた菌に感染することもあります。
とはいえ同じ環境にいた人が全て肺MAC症に感染するかというと、そうではなくて、ある素質を持った人だけがこの病気にかかることが知られています。その素質について、世界中の研究者が遺伝子解析を含めて追求しているのですが、まだはっきりとしたことは分かっていません。ただ経験的な事実として、例えば感染したお母さんの子どもは感染しやすいといった傾向はあります。
かかりやすい人とそうでない人がいて、遺伝的な素因もある程度関係しているということですね。かかりやすい人に共通する条件はありますか。
理由はよく分かっていないのですが、肺MAC症は中高年の女性に圧倒的に多い病気です。若い患者さんもいますけれど、大部分は中高年の女性です。その数は近年、急激に増えていて、過去10年間で2倍以上に達しています。
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