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1兆9000億円の試算も! 腰痛・肩こりが招く職場の「経済損失」

働く人や企業側がとるべき痛み対策とは?

 及川夕子=ライター

 「経済損失の大きさを考えると、企業や個人が『痛み対策』に取り組む意義は大きいわけです。国内外の研究により、どんな病気になると経済損失が大きいのかが次第に明らかになるにつれ、すでに米国では、アブセンティーイズムやプレゼンティーイズムへの関心が、従業員にかかる医療費以上に高くなっています」

我慢を美徳と考えない

 企業が健康経営の一環として、体の痛み対策に取り組む意義が高まってきたわけだが、どのような対策をとれば、損失を抑えて生産性を上げることができるのか。個人と企業、両側から有効な対策について見ていこう。

 「まず、個人では、肩こりや腰痛は、我慢していてもよいことはないと自覚すること。短期的には無理がきくと思っても、痛みを放置すればパフォーマンスが低下して、仕事効率が悪くなりかえって業績が悪くなりかねない、そしてご自身の体調もますます悪化してしまう。このことをしっかり認識することが大切です」と五十嵐さん。「本人は、しんどいのに頑張っているつもりでも、周囲にはその頑張りは必ずしも伝わりません。それどころか、パフォーマンスが低下して成果が上がらないことで、結局、損をするのは自分自身です。我慢が理解されなければストレスもたまるでしょう。不調は、放っておいてよいことなどないわけです」

 とはいえ、多くの人は、肩こりや腰痛の治療のために会社を休むという発想にはなかなか至らない。一般的な価値観として「肩こりぐらいで人の手を借りてはいけない」という意識が強く、慢性化していればなおさら、休暇は取りにくい。そこで必要になってくるのが、会社側の施策、それも実効性のある施策だ。

会社側は実質的なインフラ整備を

 これまで、従業員の健康管理というと、産業医や健康保険組合が担っていた部分が大きい。疾病予防のためのセミナーや研修を行うなどの啓発活動もよく行われているが、「それだけでは実効性が低い」と五十嵐さんは指摘する。

 「例えば、熱中症対策の例であれば、熱中症予防のために水分をとりましょうといくら啓発しても、職場に水飲み場がなかったり、飲料を持ち込めるというルールがなければ、実効性は低いわけです。社員のリテラシーを上げるだけでなく、上げたリテラシーを活用する場を用意すること。そして、どこで何を提供するのかを明らかにし、困ったら利用していいよという道筋をつけることが鍵になります」(五十嵐さん)

 体の痛みの場合、評価が難しい。部位や症状の程度などは個人差が大きく、人により効果的な対策や治療は異なる。マッサージかもしれないし、医師の治療かもしれないし、市販の湿布薬かもしれない。

 「予防も大事ですが、すでに症状が出ている人に対して選択肢をいくつか用意し、実質的なインフラ整備をしていくことがポイントになるでしょう。腰痛、肩こり対策については、社外のクリニックに行くよりも、社内診療所で対応できるようにするなど、少なくとも社内に相談窓口があるなどが現実的な対策かもしれません」

 また、今後注目したいのが、社員の健康を促す最高健康責任者である「チーフ・ヘルス・オフィサー(CHO)」や「チーフ・ウェルネス・オフィサー(CWO)」といった役職だ。ロート製薬、ローソン、DeNAなどが導入しているが、まだまだ例は少ない。

 「健康経営では、これまでの古い価値観を捨て、社員の健康に投資することで、生産性やモチベーションの向上、医療コストの削減など、企業価値を高める効果が期待できるという視点を持つことが重要。経営陣に対して、『やたらと仕事を強要するのは、結果的に損失になる。だから、会社のリソースを健康経営に割きましょう』と一歩進んだ提言を行うには、産業医や健康保険組合からのアドバイスでは弱く、やはり専任の担当者が必要です。この2つを両輪にして、実践可能な痛み対策の導入を図っていく必要がありますね」(五十嵐さん)

 日本人に多い疾患である腰痛・肩こりは労働生産性を大きく下げ、企業の経済損失につながることが明らかになった。個々人としては、そうした痛みを我慢してもよいことはないと自覚し、治療をすることが大切だ。また企業が健康経営に取り組む上で、何から始めていいか分からない場合には、ここで示したデータや五十嵐さんのアドバイスをぜひ参考にしてほしい。

(図版作成 増田真一)

五十嵐中(いがらし あたる)さん
東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学 特任准教授
五十嵐中(いがらし あたる)さん 2008年東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了し、現職。2010年より医療経済評価総合研究所代表。専門は医療統計学、医療経済学、薬剤経済学。

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