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100万人を超えた心不全、死因の上位だが実は4回予防できる

65歳から急増。40代、50代の習慣改善が鍵

 但本結子=21世紀医療フォーラム取材班

「心不全にならないようにする」というのは、まずは、暴飲暴食をしない、塩分を取り過ぎない、煙草を吸わない、運動をして太りすぎないということ。そして、心筋梗塞や弁膜症、不整脈があれば、必ず治療を受けるということですね。

小室 その通りです。血圧が高い人は血圧を下げる薬、心筋梗塞になった人は心臓を守る薬など、決められた薬を忘れずに服用することが心不全にならないためには極めて重要です。同時に暴飲暴食、過剰な塩分摂取、過労、感冒などにも気を付けることも忘れてはなりません。

 通常、心不全は動いた時の息苦しさで発症がわかりますが、一度心不全になってしまった人でもさらに予防ができるのです。心不全を発症して病院に入院したほとんどの人は、ある程度元気になって一旦は退院できます。しかしこれは治ったわけではなく、慢性心不全になり、急性増悪して入院を繰り返すことによって、徐々に死への階段を下りることになります。そこで急性増悪しないために、薬の飲み忘れに注意し、日常生活に気を付けることが何よりも大切です。二度と心不全で入院しないように日常注意すること、これが「三次予防」です。

 まとめると、生活習慣の改善が0次予防、心臓病にならないことが一次予防、一回目の心不全を起こさないことが二次予防、そして2度と心不全を繰り返さないことが三次予防で、心不全は4回予防できるのです。

生活習慣の改善が大事なことは多くの人がわかっていると思いますが、それをおろそかにすることで、心臓病からやがて心不全を発症して最後は死に至る。そのことと、正しい生活習慣がなかなかつながりません。

小室 問題は、心不全の怖さが理解されていないことにあります。日本人はがんで亡くなる人が多いですが、高齢者ではがんと循環器病で亡くなる方はほぼ同じです。つまり年を取って亡くなる場合は、がんか循環器病の終末像である心不全ということになります。多くの人は、胃がんになった、肺がんになったというと、とても怖がるでしょう。

 しかし、一度でも心不全で入院したら、その予後は胃がんと同じぐらいにもかかわらず、多くの人は怖がりません。怖がらないこと自体は良いのかもしれませんが、そこに大きな問題があります。遺伝子の病気であるがんを予防することは容易ではありませんが、心不全は生活習慣を改善することによって予防できるのに、心不全の怖さがわかっていないために本人が予防しようとしないのです。

心不全で一度入院したら、その予後は胃がんと同じと言われました。それほど心不全は怖いものだという啓発も必要ですね。

小室 胃がんと同じように、心不全は怖いものだと理解してほしいと思います。胃がんは発症してしまったら医師に任せるしかありませんが、心不全は一度発症しても本人が気をつければある程度は悪化が防げるので、そこもがんとは大きく異なります。がん以上に心不全がどういうものなのか、多くの人にわかってもらうことが極めて重要です。

 現在、日本の心不全患者数は100万人を超えており、総人口が減っているにもかかわらず、2035年頃まで患者数は増え続け、高齢化に伴って132万人まで達すると推定されています。特に、心不全は高齢者の病気です。年を取ると循環器の病気になることが多いですが、とりわけ心不全は苦しく、楽しい生活が送れないまま多くの人は寝たきりになってしまいます。暴飲暴食、喫煙、薬の飲み忘れなどの生活習慣に気をつけることに加え、高齢者の場合は過労に注意することも大事です。

 こうしたことを心がければ救急車で病院に運ばれることもなく、たとえ心不全を発症したとしても長生きができます。逆に正しい生活習慣を怠ると、何度も心不全を繰り返し、徐々に入院期間が長くなって、最後には命を落としてしまう。高齢になっても健やかに人生を楽しく過ごすためには、繰り返しますが、常に生活習慣を改善することがポイントになります。

心不全は65歳を過ぎると急増する

高齢者の病気というと、40~50代にとってはまだ遠く、心不全への予防の意識が薄れるように感じてしまいます。

小室 40代で心筋梗塞になり心不全になることもありますが、40代での心不全発症数は10万人当たり20~30人に対し、65歳を超えると100人、200人と急増します。一方、がんのピークは60~70歳頃で、心不全はそれより10歳遅い。つまり、65歳以下では死因のトップはがんですが、それ以降では循環器病で亡くなる人が多くなります。

 これまで日本人は、世界で最も心筋梗塞になることが少ないと言われてきました。ところが近年、糖尿病や肥満が増えたこともあり、若くして心筋梗塞になる人が増加しています。前述したように心筋梗塞から心不全を発症する人が多いので、やはり40~50代から正しい生活習慣を身につけなければ、50代で心不全を発症して苦しくなり普通の生活が送れなくなります。

 人生100年時代と言われる中で、60歳、65歳で定年になったとしても、亡くなるまでに30年余の人生があります。老後を楽しく、健康で生きる。そこを規定するのは心不全です。それでなくても歳を取れば、誰でも心臓の機能が弱り心不全予備軍になってしまうので、40~50代から生活習慣を改善し、心臓病のリスクである高血圧や脂質異常症、心筋梗塞にならないよう、さらに心不全にならないように予防することが大事なのです。

心不全がイメージしにくいことも、予防や啓発が進まない要因の一つになっていると感じますが、日本循環器学会では昨年、一般向けに心不全の定義を発表されました。

<心不全の定義>(日本心臓病学会、日本心不全学会2017年10月発表)

『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』


小室 心不全はわかりにくいため、医学的には多少の正確性は犠牲にしても、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって死に至る」と、一般向けに定義できたことは良かったと思います。

 多くの人が誤解していますが、心不全で入院し治療を受けて退院すると、治ったと思いがちです。ところが一度心不全になると、入院前よりも身体機能は下がり元のレベルには戻りません。そこからは階段を下りるしかありませんが、予防によってその下りる速度を緩やかにすることは可能です。

 がんは発症してもある程度は普通の生活ができます。一方で心不全は動くと息苦しいので日常生活がかなり制限された状態が続き、最後は息苦しさが解消することなく亡くなるため、苦しさでいえばより心不全の方が辛いかもしれません。

 心不全は胃がんと予後が同じですが、何回も予防ができるし悪化も防げます。そのことをよく理解してもらい、今こそ予防に努めてほしいと思います。

小室一成(こむろ いっせい)さん
東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科教授
小室一成(こむろ いっせい)さん 1957年生まれ。1982年 東京大学医学部医学科卒業。1984年 東京大学医学部附属病院第三内科医員。1989年 ハーバード大学医学部留学。1993年 東京大学医学部第三内科助手。1998年同大学医学部循環器内科講師。2001年 千葉大学大学院医学研究院循環器内科学教授。2006~2008年 千葉大学医学部附属病院副病院長。2009年 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教授。2012年より現職
●主な学会活動
日本循環器学会代表理事/日本医学会連合理事/アジア太平洋循環器学会副理事長/ 日本心臓病学会理事/日本心不全学会理事/日本腫瘍循環器学会理事長/ 日本臨床分子医学会理事/日本心血管内分泌代謝学会理事/国際心臓研究学会理事/ 日本脈管学会理事/日本心臓財団理事ほか

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