分野を超えた研究で包括的な老化制御を目指す
ロボットを使ったリハビリテーションなどでは神経や筋力が改善し、脊椎損傷で歩行困難になった人も歩けるようになる例が出ています。ニュートラシューティカルの摂取にも悪いスパイラルを断ち切る効果があると考えられますか。
山名 もちろん、魔法の薬のように、一発ですべてうまくいくというわけではありません。ただサプリメントを併用することでリハビリの効果が高まる、疲れにくくなるといった効果は期待できると考えています。
NOMONは「LIFE IS LONG JOURNAL」というネットメディアを立ち上げ情報を発信していますね。どういう狙いがありますか。
山名 「一般の方にも役立つ情報を知っていただきたい」という思いです。どんなに素晴らしい薬や栄養素があっても、どういう人が、どういう時に摂取すると効果が期待できるのかなど、その周辺情報がなければ全く価値がありません。極論をいえば、薬もそうした情報がなければただの毒なのです。社会全体で健康寿命の延伸やフレイル予防を実現するには、正しい情報を取捨選択し、理解した上で活用するヘルスリテラシーの向上が不可欠です。一部の専門家や研究者しか知らない情報や知識を、一般の方々にもっと広めるのがその一歩だと考え、月に10~15本の記事を配信しています。
昨年11月、NOMONが発起人となり、明治ホールディングス、島津製作所、帝人、オリエンタル酵母工業の5社で「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム」を立ち上げました。どのようなきっかけから連携を決めたのですか。
山名 老化研究の成果の社会実装を目指し、フレイルに対する創薬を行う企業などが集まって立ち上げました。メンバーのうち帝人など4社は、2019年に日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業に採択された「フレイルの予防薬・治療薬の研究開発」のメンバーです。フレイル薬の研究開発の中では、食品や運動、睡眠など、薬以外のアプローチによる老化抑制に関する様々な知見が生まれることが想定されます。プロダクティブ・エイジング実現のためには分野を超えたコラボレーションが必要なことから、コンソーシアムを作る話が進みました。今では、ライフサポートという観点から、東京海上日動火災保険、ミルテルもメンバーになっています。
コンソーシアムでは今後、健康寿命の延伸、プロダクティブ・エイジングに関わる情報発信やイベント開催に取り組んでいきます。例えば、「週に1回は食事を1日1食に制限すると健康にいい」「食事の際、うまみスープを飲むと食欲を抑えられる」など、有用な情報はいろいろとあります。科学的エビデンスのある“おばあちゃんの知恵袋”的な情報を提供していきたいと思います。
山名さんが描く未来の社会とはどのようなものか教えてください。
山名 ベストゴールは全員が生涯現役となること。健康維持に科学的根拠のあるニュートラシューティカル製品を、誰もが当たり前に摂取するようになるといいですね。そうすれば「いかにも老人」という人は少なくなって、街の風景も変わるでしょう。
人類はこれまで、様々な病気や感染症を克服してきた歴史があります。壊血病や脚気もそう。一度、やっつけることができれば、その病気が問題になることはもうありません。同じように、いずれ老化という課題も克服できる日が来ることを願っています。

文/小林佳代、写真/稲垣純也、構成/武田京子
NOMON代表取締役CEO 帝人ヘルスケア事業統轄補佐/研究主幹