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コロナ禍で「アルコールへの依存」は増えた? 減った?

「アルコール関連問題啓発プレスセミナー」リポート

 伊藤和弘=ライター

WHOによる診断基準

 治療ギャップが高い理由はいくつか考えられる。最も多い理由は「自覚がない」ことだろう。多くの患者は自分のことを単に酒が好きなだけであり、アルコール依存症などのはずがないと信じている。

 アルコール依存症はかつて「アル中」と呼ばれた。仕事もせず、朝から晩までずっと酒を飲んで酔っ払っているイメージだ。しかし、そんな絵に描いたような患者ばかりではない。毎日きちんと会社に行き、一見普通の社会生活を送っている人の中にも依存症患者は潜んでいる。

 左党にとって「ブラックアウト」(大量飲酒のせいで記憶が飛ぶこと)はそれほど珍しい現象ではないかもしれない。しかし、「このブラックアウトが起こるようになった辺りが依存症との境界線です」と樋口さんは指摘する。そもそも酒量をきちんとコントロールできていれば、記憶が飛ぶほど飲むことはありえない。ブラックアウトは酒量のコントロールが利かなかった証拠であり、依存症の入り口というわけだ。

 ここでアルコール依存症の診断基準を紹介しておこう。WHOでは以下の6項目のうち3項目以上に当てはまる場合をアルコール依存症だとしている。

(1)

飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感

(2)

飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動を統制することが困難

(3)

禁酒あるいは減酒したときの離脱症状(イライラする、手がふるえる、など)

(4)

耐性の証拠(飲酒量が増える)

(5)

飲酒にかわる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるをえない時間やその効果からの回復に要する時間が延長

(6)

明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒

 酒好きを自認している人であれば、1つや2つは当てはまるのではないだろうか。アルコール依存症の診断基準は想像以上に厳しく、自覚がない人が多いことがよく分かる。

 同じくWHOが作った「AUDIT(オーディット)」というアルコール関連問題のスクリーニングテストもあり、久里浜医療センターのHPにも載っている。「10項目の質問に答えることで0~40点がつき、15点以上になるとアルコール依存症が疑われるというものです」と樋口さんは説明する。

 実際、約4000人の成人に行ってもらった結果、15点以上になる人は男性の5.1%、女性の0.7%であり、アルコール依存症の有病率に近いという。気になる人は、ぜひ試してもらいたい。

新しいガイドラインでは「減酒」も治療目標に

軽度の依存症の場合は“減酒”も目標となりうるという
軽度の依存症の場合は“減酒”も目標となりうるという

 治療ギャップを高くする理由の1つに、これまでは治療方法が“断酒”しかないことも大きかっただろう。自分の飲み方に問題があることを知りながら、どうしても専門医療機関には行きたくない。「酒をやめるくらいなら死んだほうがマシ」という心理だ。しかし、最近は治療の選択肢が増えているという。

 「これまでアルコール依存症の治療は“断酒”の継続が唯一の目標とされてきました。しかし海外の研究を見ると、軽度の依存症の場合は“減酒”(飲酒量の低減)を維持できることが多い。ヨーロッパでは実に26カ国が減酒を治療オプションとして認めているのです」(樋口さん)

 そこで日本でも2018年に「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」が出された。従来のガイドラインよりも早期診断と治療に重点を置いており、「断酒」しかなかった治療目標に「減酒」も加えたことが大きな特徴となっている。

 具体的には「一つの選択肢として、まず飲酒量低減を目標として、うまくいかなければ断酒に切り替える方法もある」「軽症の依存症で(中略)飲酒量低減も目標になりうる」と書かれている。考えるまでもなく、酒飲みにとって断酒と減酒では全然違うだろう。

 久里浜医療センターでは、それに先駆けて2017年から「減酒外来」を始めた。減酒で目標とする飲酒量は生活習慣病のリスクを高めないアルコール量だ。

 厚生労働省では「生活習慣病のリスクを高めるアルコール量」を男性は1日40g以上、女性は20g以上としている。アルコール20gとは、ビールなら中瓶1本(500mL)、日本酒なら1合(180mL)、ワインならグラス2杯(240mL)、ウイスキーならダブル1杯(60mL)程度。つまり男性の場合、「日本酒なら1日2合以内」が減酒の目標になる。

 さらに、これまでアルコール依存症に使われる医薬品は「離脱症状を抑えるもの」(抗不安薬や睡眠薬)と「断酒を維持するもの」(酒が飲めなくなる抗酒薬)しかなかったが、2019年から新たに「飲酒量を減らすもの」が登場した。セリンクロ(一般名ナルメフェン)は飲酒欲求を抑える作用で減酒をサポートする処方薬だ。

 軽症の患者は減酒そのものを治療目標にする。断酒すべき重症の患者も、最初のステップとして減酒を目標にする――。どちらにしても、減酒という選択肢は医療機関の敷居を低くし、治療ギャップを少なくしてくれるに違いない。

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