日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > 医療・予防  > トピックス  > 「脱毛に悩むがん患者が、普通に通える美容院を増やしたい」   > 3ページ
印刷

トピックス

「脱毛に悩むがん患者が、普通に通える美容院を増やしたい」 

乳がん患者をサポートする美容師の取り組み

 芦部洋子=ライター

「がん患者さんが普通に通える美容院を増やしたい」

美容師向けに月に一度の頻度で講習会を開催している
[画像のクリックで拡大表示]

 上野さんは、自らの美容院だけではなく、多くの美容院でがん患者のサポートができるように、2016年から美容師向けの講習を始めている。ビューティ・リングのテキストを基に教材を作り、ケアする側が知っておくべき事項、医療用ウィッグのカットの実演などを教えている。

 がん患者が増え続けている今日、抗がん剤の影響で脱毛した患者に対応できる美容師が増えれば、患者のQOL(生活の質)向上はもちろんのこと、美容師の活動の可能性も広がると思っているからだ。

 月1回の講習会には、これまで約100人の美容師が参加してきた。今後は、内容をブラッシュアップし、活動を組織化して、メディカル・スタイリストといった称号を付けて免状を出すことも考えている。「美容院の入り口に称号を記したシールを貼るなどして、抗がん剤で脱毛した人のヘアケアに対応できる美容師がいる店、と知ってもらえれば、悩める患者さんたちの受け皿になれるのではないか」と、上野さんは展望を語る。

「髪が抜ける前にショートヘアにするのがお勧め」

 上野さんに、抗がん剤治療を受ける患者へのアドバイスの一端を聞いた。「髪が抜けてしまう前にショートヘアにすることを勧めています。枕や風呂の排水溝に抜け毛がたまるので、長い毛だとボリュームが多く、患者さんのショックが大きいからです」(上野さん)。さらに、ショートヘアに慣れていると、新しい毛が生えてきたときに早くウィッグを脱ぐことができる。長く伸びるまで待つと、2年、3年とウィッグをかぶり続けなくてはならないからだ。

 また、抗がん剤の投与中に発毛剤、育毛剤を使うのはNGだ。「発毛剤、育毛剤は毛を作る細胞である毛母細胞の血行を促進するため、抗がん剤の影響を強く受けてしまうといわれています」

 上野さんらは、脱毛中にかぶる手作りウィッグの作り方も教えている。帽子やターバンに100円均一ショップで販売している前髪ウィッグをマジックテープで付けたものなどだ。

 医療用ウィッグ(*2)は高価だが、脱毛後の脆弱な頭皮を保護する作りで安心して使え、急な慶弔時のためにも1個は持っていたほうがいい。しかし、日常生活に3000円前後のおしゃれ用ウィッグや、100円ショップで手に入るようなウィッグをうまく取り入れれば、気分に合わせて様々なヘアスタイルを楽しんだり、帽子姿をより自然に見せたり、医療用ウィッグの使用頻度を下げてその劣化を防いだりできる、と考えている。

手前は、おしゃれ用の前髪ウィッグをヘアバンドに貼り付けたもの。こうしたものを頭に装着してから帽子をかぶると、より自然な帽子姿になるという提案もしている
[画像のクリックで拡大表示]
ネイルケア用に市販されている指先が二重になった手袋は、爪を保護してくれるので便利
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに、抗がん剤投与は爪にも影響する。爪の根元にある爪母(そうぼ)細胞という爪を作る細胞が、抗がん剤の影響を強く受けることが原因だ。爪が黒ずむ、凹凸や縞のような線ができる、爪が肉から浮く、などのトラブルが起こるケースがあるが、脱毛と違って個人差が大きく、抗がん剤投与が終わると治る人が多いという。

 対策は爪を十分に保湿すること。乾燥して免疫力も弱まるので、爪専用のオイルとハンドクリームを塗るとよい。二枚爪や亀裂の原因になる爪切りはやめて、やすりで削る方法を勧め、ネイルケア用に市販されている指先が二重になった手袋を、入浴、家事、睡眠時などに利用するよう紹介している。

 上野さんは「乳がん患者さんにも普通のお客さんと同じように接しています。患者さんが喜ぶ様子を見ていると、美容師になって良かったと思うし、美容師の仕事の可能性の広がりを実感します」と語る。病と闘う患者を美しくすることで、心も体もサポートしている上野さんたち美容師の活動の意義は非常に大きい。

*2 抗がん剤治療による脱毛を経験した人や円形脱毛症の人などが一時的に着用するかつらのこと。粗悪品が流通することもあったため、2015年4月、医療用ウィッグのJIS規格が制定された。直接頭皮に接触する部分の皮膚刺激指数や、洗濯堅ろう度、汗堅ろう度などの性能、試験方法などが細かく定められている。

(写真 鈴木愛子)

上野修平(うえの しゅうへい)さん
上松代表取締役
上野修平(うえの しゅうへい)さん 1971年北海道生まれ。札幌ビューティーメイク専門学校卒業。都内大手サロンにて美容師として12年間勤務の後、2005年4月、東京・築地に美容院「上松」をオープン、2010年「Salon Omm」をオープン。美容師向けの講習会は月1回開催しており、最新情報は同社フェイスブックで紹介している。

先頭へ

前へ

3/3 page

RELATED ARTICLES関連する記事

医療・予防カテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 健康寿命を左右する「全粒穀物と食物繊維」の摂取方法

    今、世界的に「全粒穀物」の健康効果が注目されている。全粒穀物の摂取が増えるほど、がん、心血管疾患、総死亡率が低くなるという研究報告も出ている。その健康効果の中核となっているのが「食物繊維」だ。食物繊維が体にいいことはよく知られているが、主に便通などに影響するものと軽視されがち。だが、食物繊維不足は生活習慣病と密接な関係がある。本特集では、主食の選択が及ぼす健康効果から、注目の大麦の健康効果、穀物以外の食物繊維のとり方までを一挙に紹介する。

  • 「胃がん」撃退のため知っておきたい最新情報

    これまで多くの人の命を奪い、「死の病」であった胃がんが、「ピロリ菌」除菌の登場によって未然に防ぐことができる病気になってきた。また、万が一胃がんになってしまった場合も、胃カメラによる検診を定期的に受けていれば、超早期の段階で見つけて治療し、胃の機能をほとんど損ねることなく日常生活に戻ることができる。本特集では、近年死亡率が大きく減少している胃がんの最新事情をまとめる。

  • 寝ても取れない疲れを取るには?

    「疲労大国」といわれる日本。「頑張って仕事をすれば、ある程度疲れるのは当たり前」「休む間もないほど忙しいが、やりがいがあるから、さほど疲れは感じない」などと思っている人も多いかもしれない。だが、睡眠時間を削るような働き方を続けていると、知らぬうちに疲れはたまる。結果、「寝てもなかなか疲れがとれない」という状態に陥るばかりか、免疫力の低下や、生活習慣病の発症につながることは多くの研究で知られている。疲労の正体から、疲労回復の実践的な方法までをまとめた。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Goodayマイドクター申し込み

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2018 Nikkei Inc. All rights reserved.