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トップアスリートは風邪を引きやすい スポーツドクターが語る真実

運動と免疫の意外な関係

 伊藤和弘=ライター

ウオーキングなど適度な運動は免疫機能を上げる可能性が。写真はイメージ=(c)PaylessImages-123RF

 赤間さんらは運動習慣のなかった高齢者たちに運動をしてもらい、SIgAの変化を調べたことがある。「1日7000歩」「高齢者用の運動教室での運動を週2回」「30分のウオーキングを週5回」、いずれの場合もSIgAがそれ以前よりも上がることが確認された。

 一方、大学院生たちにフルマラソンをしてもらった結果、大幅にSIgAが下がり、翌日になっても回復しなかった(体力科学 1998;47:53-62.)。

 日常的に運動しているアスリートの場合、普段は一般人よりも免疫機能が高い傾向がある。ところが強化合宿などでハードなトレーニングをすると、その期間は大きく下がり、風邪を引きやすくなるという。「陸上長距離など持久系競技の選手は特に練習量が多くなりがちなのでリスクが高いです」(赤間さん)

 適度な運動は免疫機能を上げるが、激しい運動は逆に下げてしまうのだ。

ストレスによって分泌されるコルチゾール

 なぜ激しい運動をすると免疫機能が下がるのだろう? 赤間さんは「運動は体の状態を変化させるという意味で、ストレスの一種なんです」と説明する。ご存じの通り、適度なストレスは活力を生むが、強いストレスは健康を損ない、病気を発症するリスクが高くなる。運動も基本的に同じというわけだ。

 「体にストレスがかかると内分泌系、自律神経系、そして免疫系が元の状態に戻すために反応します。ストレスによってコルチゾール(副腎皮質ホルモン)というストレスホルモンが分泌されますが、このコルチゾールに免疫を抑える作用があるんです」(赤間さん)

 免疫機能は常に高ければいいというものでもない。花粉症やアトピー性皮膚炎などに代表されるアレルギー疾患は、免疫機能が働き過ぎて起こる病気だ。いずれにせよ、ストレスがかかるとそれに耐えるためにコルチゾールが分泌され、その影響で免疫機能が下がってしまうという。また、運動以外のストレスでもSIgAが下がることも分かっている。

 大会に出場しているアスリートにとって風邪は大敵だ。風邪など引いていたら、当然パフォーマンスは落ちて本来の実力が発揮できなくなる。まして、ハードトレーニングで免疫機能が落ちやすいアスリートは一般人以上に風邪対策を考えなければならないだろう。

 「アスリートの風邪対策には大きく2つの方法が考えられます。1つは免疫機能が下がらないようにキープすること。もう1つはウイルスや細菌に感染しないように防御することです」(赤間さん)

乳酸菌でSIgAが増えたという報告も

 まず、免疫機能を下げないようにする方法について。毎日SIgAなどを測定しながら練習し、オーバーワークにならないように注意できれば理想的だが、誰でも手軽に測定できるものではない。「まだ十分なエビデンスがあるとはいえない段階だが、鍼(はり)やマッサージなどの物理療法、ヨガやアロマテラピーなどのリラクセーションによって一時的にSIgAが上がったという報告はある」(赤間さん)という。

 栄養素では、ビタミンAが不足するとSIgAが下がり、またビタミンDの血中濃度を高めることでSIgAが高まる可能性が示されているほか、「最近は乳酸菌も注目されている」(赤間さん)という。継続的な乳酸菌の摂取によって唾液中のSIgAが増えたという報告もある(花岡ほか 体力科学 2015 ;64:315-22.)。

風邪予防には「手洗い」の徹底が必須。写真はイメージ=(c)mitarart -123RF

 風邪の感染を防ぐには「手洗い」が基本だ。風邪やインフルエンザのウイルスは飛沫感染であり、感染者のせきやくしゃみに乗って外に出てきて、おおむね1m以内に落下するような大きくて重い粒子に含まれるウイルスが感染の原因になる。何かのはずみでそれが手に付き、その手で鼻や口を触ることで感染してしまうことが多い。そのため、まめに手を洗い、ウイルスを洗い流すことが有効になる。

 マスクは感染者が装着してウイルスをまき散らさないようにするものであるが、満員電車などで近距離から他人のせきやくしゃみを自分の口や鼻に直接浴びる可能性がある場合は、マスクを使うことも予防に役立つ可能性がある。一方、「風邪のウイルスは約20分で粘膜に侵入するといわれているので、うがいはあまり予防効果を期待できません」と赤間さんは話す。

 これから、風邪やインフルエンザのシーズンがやってくる。健康のためにしている運動で健康を損ねては台無しだ。手洗いで感染を防ぐとともに、オーバーワークで免疫機能を落とさないように注意しながら運動を楽しみたい。

赤間高雄(あかま たかお)さん
早稲田大学スポーツ科学学術院教授、医師、医学博士
赤間高雄(あかま たかお)さん 1988年筑波大学大学院医学研究科修了。筑波大学臨床医学系講師、日本女子体育大学助教授、早稲田大学スポーツ科学部助教授などを経て2006年現職に。専門分野はアンチ・ドーピング、スポーツ免疫、スポーツ医学。アテネ、北京、ロンドンのオリンピックで日本代表選手団本部ドクターを務める。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会メディカルディレクター、日本アンチ・ドーピング機構副会長。

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