味がよく分からない、食欲が落ちてきた…それは亜鉛不足かも
高齢者では寝たきり予備軍となる可能性も
梅方久仁子=ライター
ひとり暮らしで孤独に食事をする高齢者は、食事の品数が少なく、メニューも片寄りがちのため、亜鉛欠乏を起こしやすい。ところが味覚障害を起こしても、味付けを濃くするなど自分で調整してしまうので、障害があることに気付きにくい。それでもなんとなく料理がまずいので食欲がなくなり、食欲がなくなると食が細り、栄養がますます偏ってしまう。そしてたんぱく質やカルシウムが不足すると、筋力不足や骨粗しょう症を起こしやすくなる。
「亜鉛は男性ホルモンのテストステロン生成にも関わっています。テストステロンには、筋肉を作ったり骨を強くしたりする作用があるので、テストステロンが不足すると、さらに筋力不足や骨粗しょう症が起こりやすくなります」と平澤氏は言う。
「亜鉛は脳の認知機能にも関与します。うつ傾向で意欲が低下して外出が減ると、身体機能は衰えていきます。亜鉛欠乏症では、肌荒れや脱毛で老けて見えやすくなるので、それも外出する意欲を低下させるでしょう。こういった悪循環は、フレイルから要介護へと一直線につながっていきます。若々しさと健康を保つためには、亜鉛というキーワードをぜひ認識してください」(平澤氏)。
フレイルとは、高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱になった状態のこと。フレイルから要介護へと進むことが多く、要介護予備軍とも言える。亜鉛不足が元で要介護になってしまったら、大変だ。
薬の影響でも、味覚障害が起こる
味覚障害には、普段から飲んでいる薬が影響することもある。そのメカニズムは薬の種類によってさまざまだが、中でも注目されるのは、「亜鉛キレート作用」の影響だ。キレート作用とは、化学物質が金属イオンを包み込むような形で結合すること。亜鉛はキレート結合すると体外に排出されやすくなるため、亜鉛をいくら摂っても、どんどん排出されてしまう。結果的に、亜鉛不足による味覚障害を起こすというわけだ。

亜鉛キレート作用を起こす薬は慢性疾患に使用するものが多く、何百種類もある。高齢者は、さまざまな慢性疾患を抱えていて、服用する薬の種類が多くなりがちなため、薬剤による味覚障害も多いと考えられる。
「高齢者の味覚障害が、薬剤による亜鉛不足が原因とわかっても、病気の治療に必要な薬はやめられません。そうなると外から亜鉛を補うしかないのですが、多量の亜鉛製剤を飲んでも亜鉛がどんどん排出されていくので、改善するまでにかなり時間がかかります」と任氏。
だが、亜鉛不足による味覚障害なら、根気よく亜鉛を補充していけば、治ることも多い。
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