日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様
日経Gooday TOP  > からだケア  > トピックス  > 依存症を考える なぜリスクを承知で痴漢行為を繰り返すのか?  > 3ページ目
印刷

トピックス

依存症を考える なぜリスクを承知で痴漢行為を繰り返すのか?

精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんに聞く(下)

 及川夕子=ライター

痴漢行為を断つためのコーピングを複数持つ

 コーピングについて言うと、痴漢行為を断つ、気をそらすには、五感への刺激がとても有効で、治療の中でも勧めています。例えば、電車の中で音楽を聴くと、聴覚をふさがれるのでいざというときに逃げられない。ほかにも、メガネを外す(見えないから逃げられない)、激辛ソースを普段から持ち歩いてなめる(欲求を抑える)、普段から鈴を身に着ける(音が鳴って見つかりやすい)、匂い(苦手な匂いを嗅ぐ)、保冷剤を握る(体感に集中する)といったコーピングがありますね。コーピングが1つしかないと、引き金やリスクへの選択肢が少ないため、コーピングを複数持っていることも、実は大事なストレス対処法のポイントですね。

これを一般の方に置き換えると、ストレスがたまったときに、買い物をするとか、お酒を飲むといったコーピングしかないと、経済的な負担や健康被害が起こってきてかえって依存症に陥りやすくなりますね。ですので、音楽を聴く、ペットと遊ぶ、散歩をする、走る、友達とおしゃべりするなど、お金がかからないコーピングやできるだけ楽しくて健康に良いコーピングを複数持っていることが、健全なストレス解消法ということになりますね。

斉藤 まさにその通りですね。

ストレスフルな状態になる要因「SALT」を避ける

ほかにも、日ごろからストレスを抱えやすいビジネスパーソンにとって、参考になるような対処法はありますか?

斉藤 先ほど弱さを認めることについてお話ししましたが、ビジネスパーソンの方にもできることがあります。人に頼ってみる、ということです。

 私は、もともとは体育会系で、新人の頃から気合いと根性で仕事をこなしているようなところがありました。あるとき、先輩から「そういうやり方をしていると、いつかバーンアウト(燃え尽きる)してしまうよ」と指摘され、「1日3回、なんでもいいから人に助けを求めなさい、SOSを出しなさい」という課題を出されたのです。これは業務命令です。最初のうちは、とにかく苦痛で、どうやって助けを求めたらいいか分かりませんでした。でも、なんとかやっていくうちに、人に頼るスキルが身に付いてきたのです。

 相談されると、人はうれしいもので、人とよい関係を築けるきっかけになります。周囲を信じて任せてみることは、重圧や孤独といった精神的なストレスから解放されることにもつながります。日本人の男性は、人に頼れない性分という人が実は多いのではないでしょうか。男性の弱みは、人に弱さをオープンにできないことだと思います。よかったら「1日3回、助けを求めること」を、ぜひ実践してみてほしいですね。人間関係を劇的に変えることができると思いますよ。

なるほど。人間関係は、ときどき煩わしく感じることもありますが、孤独はストレスになり、人を依存に向かわせます。頼り上手、甘え上手になると、楽に生きられるようになりますね。

斉藤 加えて、依存症のスイッチが入りやすい状況には、睡眠不足などいくつかの要因があります。それらを理解しておき、日ごろから予防に努めるとよいと思います。キーワードは「SALT」です。

SALTとは?

斉藤 スリープ(sleep:睡眠不足)、アングリー(angry:怒り)、ロンリー(lonely:孤独)、タイアド(tired:働き過ぎ/長時間労働)の4つです。睡眠不足だと、冷静な判断ができなくなる、自暴自棄になりやすい、攻撃的になりやすいなど、いつもと違う状態になることは、多くの人が体感していることだと思います。自分をストレスフルな状態にしてしまう要因は、できるだけ避けることです。

日ごろから、体調を整えておくことは、ビジネスパーソンの必須スキルですが、依存症の予防にもなるのですね。今回は、痴漢などの性犯罪は、依存症の一つであり、ストレスと深い関わりがあることを紹介しました。こうした情報は、社会できちんと共有していきたいですね。ありがとうございました。

斉藤 最後につけ加えると、日本の社会環境が性犯罪を生んでいる現状にも目を向けてほしいですね。アジア各国から優秀なエンジニアが日本に来ていますが、その中には、日本で働いて生活しているうち、『CHIKAN』になっていく人がいるのです。個人で気をつけることも大切ですが、社会全体としては、長時間労働や満員電車を解消するといった政策もとても重要だと考えています。さらには、「痴漢は依存症であり、治療でやめられる」ということが広く認知され、痴漢行為が巧妙化してエスカレートしていく前に治療に向かう(早期発見・早期治療)、という流れになってほしいと願っています。

斉藤章佳(さいとう あきよし)さん
大森榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士
斉藤章佳(さいとう あきよし)さん アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにて、約20年にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・性犯罪・DV・クレプトマニアなど様々なアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在まで2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。近著に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)がある。

先頭へ

前へ

3/3 page

日経グッデイ初割春割キャンペーン2022

RELATED ARTICLES関連する記事

からだケアカテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 放置すると命を脅かす「高血圧」 140未満でも油断禁物

    収縮期血圧(上の血圧)が基準値の140より低くても130以上であれば「高値血圧」と言い、生活改善が望まれる。そこで本記事では、なぜ血圧を下げる必要があるのかや、手軽で効果的な「血圧リセット術」について紹介する。今年こそ、高血圧を改善しよう。

  • 健康長寿の生命線! 放置は禁物 「腎臓」の異常値

    生命維持に欠かせないさまざまな機能を担っている腎臓は、よほど悪くならない限り悲鳴を上げない「沈黙の臓器」でもある。本記事では、大切な腎機能が失われる前に、異常値にどう対処すればいいか、腎臓を守るためにはどのような生活習慣に気を付けていけばいいかについて解説する。

  • 加齢で進む胃の不調 機能性ディスペプシアと逆流性食道炎の原因と対策

    加齢により胃の機能が衰えると、さまざまな不調が起きる。ピロリ菌の除菌が進んで胃がんや胃潰瘍が減ってきた今、胃の病気の主役は、胃もたれや胃痛の症状を招く「機能性ディスペプシア」と、胸やけやげっぷが起きる「逆流性食道炎」の2つに移行しつつある。なぜ機能性ディスペプシアと逆流性食道炎は起きるのか、どのような治療が必要なのか、セルフケアで改善・予防できるのか。このテーマ別特集では、胃の不調の原因と、それを解消するための対策を一挙紹介していく。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Gooday新型コロナ特設 日経Gooday初割キャンペーン2022

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2022 Nikkei Inc. All rights reserved.