新型コロナのリアルワールドでの感染は「飛沫感染」が大半
感染者からの距離と換気の程度が大きく影響
大西淳子=医学ジャーナリスト
ペットの感染について分かっていること
新型コロナウイルスが、イヌ、ネコ、フェレットといったペットに感染するという報告は複数あります。また、ネコ間、フェレット間で感染が起こりうる一方で、イヌの場合には、感染はするものの、体内でウイルスは増殖しにくいことが示されています。これまでのところ、ペットから人への感染が生じうることを示した確かなエビデンスはありません。例外として、養殖されていたミンクが新型コロナウイルスに感染し、ミンクから飼育者が感染したと見なされた事例は存在します。
母子感染について分かっていること
妊婦が感染していた場合に、ウイルスが胎盤を通過し、胎児に至る可能性があることは示されていますが、実際に胎児が胎盤を通じて感染したという確かな証拠は得られていません。母乳から新型コロナウイルスが検出された例もありましたが、母乳を介して感染したことが確認された乳児の報告はありません。もし母親が感染していたとしたら、出生後すぐから、新生児には飛沫感染が起こりうるからです。著者らは、「飛沫感染以外の経路による母子感染が起こることはほとんどない」との考えを示しています。
便を介した感染について分かっていること
便から新型コロナウイルスのRNAが検出された、とする報告は多くありますが、それらの中で、感染性を持つウイルスを検出したという報告はごくわずかです。感染性のあるウイルスが存在するならば、トイレで水を流すことによってウイルスがエアロゾル化し、感染を引き起こすことはありそうですし、実際に感染したらしい患者の報告もあります。しかしいずれも、トイレでエアロゾルを吸い込んだ可能性以外にも、感染が起こりうる状況があった患者でした。著者らは、「便からのエアロゾル感染は、通常の方法でトイレを使用している状況では起こらないのではないか」と考えています。
性行為感染について分かっていること
性行為での感染を示すエビデンスは、これまでのところありません。精液からはウイルスが検出されていますが、感染性のあるウイルスは見つかっていません。膣分泌液については、これまでに調べられた中で、1人の女性に由来する標本のみ、PCR検査で陽性でしたが、検出されたウイルス量は少なかったとのことです。もし、性行為による感染の可能性が高い患者が見つかったとしても、経気道感染を否定することは困難だと著者らは考えています。
血液感染について分かっていること
新型コロナウイルスの血液を介した感染はこれまで報告されていません。血液中にウイルスRNAが検出された患者の割合に関する報告は複数ありますが、血液中から感染性のあるウイルスが見つかったという報告はありません。
ウイルスの排出期間と感染性を持つ期間について分かっていること
感染者から周囲への感染は、完全に無症状だった人からも起きていますが、そうした感染者から、どの程度の量のウイルスがどのくらいの期間排出されているのかについては、はっきり分かっていません。発症した患者については、重症度が高い患者や、発熱と痰が認められる患者からは、二次感染者が多く発生することを示した研究が1件あります。
新型コロナウイルスに感染した当初は、ウイルスは主に気道の上部(鼻や咽頭)に多く存在しますが、発症すると、気道上部のウイルスは速やかに減少し、気道の下部でのウイルス増殖が盛んになる(具体的には、例えば痰に存在するウイルス量がこれを反映する)ことが明らかになっています。
中国で行われた49人の患者を対象とする詳しい分析によると、鼻咽頭におけるウイルスRNAの排出期間の中央値は、軽症患者が22日、重症患者が33日で、一部の患者は2カ月超にわたってウイルスを排出していました。しかし、感染性を持つウイルスが排出されていた期間はそれよりはるかに短く、軽症から中等症の患者では、発症から最長でも8日後までであり、10日後以降には見つからなかったと報告されています。
重症患者を対象に分析した研究でも、感染性のあるウイルスが排出されていた期間の中央値は、発症から8日でした。一部の患者では最長20日間にわたって感染性を持つウイルスが排出されていましたが、ウイルス量は徐々に低下し、並行して中和抗体のレベルが上昇していました。これまでの報告では、発症から1週間程度たった入院患者から医療従事者に感染した例は、見られていないとのことです。
発症前の感染者からのウイルス排出については、米国の介護施設での大規模なアウトブレイクについて検討した研究があり、このケースでは、発症の6日前から感染性を有するウイルスが認められたと報告しています。
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