新型コロナのリアルワールドでの感染は「飛沫感染」が大半
感染者からの距離と換気の程度が大きく影響
大西淳子=医学ジャーナリスト
接触感染について分かっていること
環境に存在しているウイルスに触れた手などを介した接触感染が、実際に起きたことを明確に示したエビデンスは、これまでのところありません。アカゲザルの結膜にウイルスを植え付けた実験では、感染は起きましたが、のどの奥にウイルスを植えたサルと比べると、肺の症状は軽症でした。同様に、アカゲザルの胃に直接ウイルスを植え付けた実験では、感染は起こりませんでした。
人の患者の中にも、接触感染が強く疑われた症例はありましたが、いずれも、気道からの感染の可能性を完全に否定できていません。鼻や口を介する接触感染は、マスクを外した状態で起こると考えられるからです。
また、医療従事者では、手の衛生がずさんであることが、感染リスクの上昇と関係しており、塩素またはエタノールを含む消毒洗浄液の日常的な使用は、感染リスクの低下と関係していると報告されていますが、解釈は簡単ではありません。人々の手の衛生が良好な環境では、マスク着用や環境の消毒などといった、他の感染予防策も十分に行われていることが多いからです。著者らは、「接触感染は起こりうるが、非常に特殊な条件でのみ発生するのではないか」と述べています。
経気道感染(飛沫またはエアロゾル感染)について分かっていること
これまでに公開された症例報告やクラスター報告から得られたエビデンスは、新型コロナウイルスの主要な感染経路は経気道感染(飛沫またはエアロゾルが、鼻や口から入るために生じる感染)であり、感染者からの距離と換気の程度が、感染リスクの大きさに重要な影響を与えることを強力に示しています。
このところ、空気中に浮遊する直径5µm未満のエアロゾルのなかにも、感染性を持つ新型コロナウイルスが存在するという報告が増えています。エアロゾルを発生させる医療行為(気管支鏡検査など)以外にも、カラオケ愛好者の集まりや合唱サークルで、また、換気の悪い室内などで、エアロゾルが、離れた場所にいる人にまで感染を広げた可能性は示されています。
しかし、感染者からの距離が感染リスクの重要な決定因子であることを示した報告、すなわち、エアロゾル感染よりも飛沫感染が主な感染経路であることを示した報告が複数あります。
たとえば、電車内での感染の事例では、感染者の座席からの距離と、感染者と同じ車両内に滞在した時間が、感染リスクと密接に関係していました。また、フィットネス教室では、無症状の感染者であるインストラクターが狭い空間で多くの人とともに高強度の運動(息が荒くなる運動)を行ったクラスではクラスターが発生しましたが、少人数の生徒にピラティスを教えたクラスでは、二次感染は起こりませんでした。
新型コロナの感染予防における換気の重要性は、中国で家庭内感染のリスクについて調べた研究者たちによって示されています。窓を開けていた家庭では、そうでなかった家庭に比べ、家族間の感染が少なかったそうです。また、換気不良は、バーや教会などでの多くのクラスターの発生と関連づけられています。
感染予防におけるマスクの有効性については、医療従事者と一般人の両方に対する効果を示したデータがあります。中国で行われた1件の研究は、発症前のマスクの使用が、家庭内感染を顕著に抑制したと報告しています。こうしたエビデンスも、新型コロナウイルスが主に経気道感染することを示しています。
