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脳と腸の意外な関係 腸内細菌が認知症に影響する?

認知症セミナー(中編)

 梅方久仁子=ライター

 食べ物が体内に入ると、腸内細菌が食物を代謝し、その結果、様々な代謝産物が発生する。例えば、腐敗産物であるインドールや、悪い菌を抑制する乳酸・酢酸などが代表的な代謝産物だ。

 「代謝産物が一つのカギとなると思います。食事によって、代謝産物は変わります。食事はいろんな病気に関連していますが、認知症もやはり関係しているのではと考えています」(佐治さん)

 佐治さんらは、腸内細菌がつくり出す様々な代謝産物と認知症の関係を調査した(*3)。その結果、腸内細菌のいくつかの代謝産物は、認知症と関係があることが分かったという。中でも、アンモニア(*4)が認知症リスクとの関連が高く、乳酸は低いという結果が得られたという。

*3 Saji N, et al. Sci Rep. 2020 May 18;10(1):8088.
*4 アンモニアは食物中のタンパク質が代謝されるときにできる有毒な物質。ただし健康な人では、肝臓の働きによってアンモニアは無毒化され、尿とともに体の外に排せつされる。

 また、佐治さんらの別の研究では、認知症の人と認知症ではない人では、腸内細菌叢(さいきんそう)はタイプが異なることが分かった。認知症ではない人に比べて、認知症の人の腸内細菌叢には、種類の分からない菌が増えているという。

認知症の人とそうでない人の腸内細菌のタイプ
認知症の人とそうでない人の腸内細菌のタイプ
認知症の人と、そうでない人の腸内細菌のタイプを比較したところ、認知症の人では「バクテロイデス」と呼ばれるタイプの菌が少なく、その他の不明な細菌の割合が増えていた。(元データ Saji N, et al. Sci Rep. 2019 Jan 30;9(1):1008.)

「現代的日本食」を好む人は、認知症になりにくい?

 「日本食と認知症」「日本食と腸内細菌」については、これまで東北大学などで研究されてきたが、佐治さんらはこれらをまとめ、日本食と腸内細菌・認知症との関係についての解析を行ったという。

患者さんの食事の内容を調査して、どの程度日本食中心かを、次のようなスコアで表した

  • 伝統的日本食スコア… 米飯、味噌、魚介類、緑黄色野菜、海藻類、漬物、緑茶が多いと、それぞれプラス1点、牛肉豚肉、コーヒーはマイナス1点とする。
  • 現代的日本食スコア… 伝統的日本食スコアに加えて、大豆類、果物類、キノコ類が多いと、それぞれプラス1点とする。
  • コーヒーを含む現代的日本食スコア… 現代的日本食スコアのコーヒーをマイナスではなくプラス1点とする。
ご飯、味噌汁、焼き魚、野菜、海藻類、納豆…こういった和食を点数化して調査した結果は?(写真はイメージ=123RF)
ご飯、味噌汁、焼き魚、野菜、海藻類、納豆…こういった和食を点数化して調査した結果は?(写真はイメージ=123RF)

 解析の結果、認知機能がよい患者さんは、魚介類、キノコ類、大豆類、コーヒーを摂取する割合が多かった。また、「現代的日本食スコア」が低いと認知症の人が多く、高いと認知症の人の割合は少なかった。「現代的日本食スコア」と「コーヒーを含む現代的日本食スコア」が高いと、認知症の割合が低かったという結果も出たという。

 海外の研究でも、MIND食やDASH食(*5)という健康によい食事をとっている人は、血液脳関門(*6)が保たれるという報告がある。また、国内の研究では、魚油(DHA)を多くとる人は認知機能低下のリスクが低く、豆類を多くとる女性は10年後の認知症発症リスクが下がるといった報告がある。

*5 MIND食とは、地中海食とDASH食を組み合わせた食事法。DASH食とは、アメリカで高血圧改善のために推奨されている、飽和脂肪酸とコレステロールを抑えてミネラル、食物繊維、タンパク質を多くとる食事法。

*6 血液から脳組織への物質の移行を制限する仕組みのこと。

 「食事や健康に関する情報は、厚生労働省のe-ヘルスネットや農林水産省の『日本型食生活』のススメといったサイトに紹介されています。しかし、あまり知られていないようで、もったいないですね。もう少し分かりやすく知らせていく必要があるのかなと思います」(佐治さん)

 これらのサイトの情報を活用して、自身の健康を保っていきたいものだ。

 次回は、ビフィズス菌に関する講演内容をお届けします。

(図版制作:増田真一)

佐治直樹(さじ なおき)さん 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 副センター長
佐治直樹(さじ なおき)さん 1975年生まれ。1999年に岐阜大学医学部を卒業、2011年に神戸大学大学院を修了。兵庫県立姫路循環器病センター神経内科(医長)、川崎医科大学脳卒中医学(特任講師・特任准教授)などを経て、2015年に国立長寿医療研究センターに着任。主な研究テーマは、腸内細菌と認知機能の関連、脳卒中と認知症に共通する危険因子の解明など。

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