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意外と身近なイベルメクチン 「ありがとう、大村さん」―ノーベル賞受賞によせて―

高齢者などに流行する疥癬、糞線虫症、犬のフィラリア症予防薬にも

 大西淳子=医学ジャーナリスト

 北里大学特別栄誉教授である大村智氏が、2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞されました。受賞理由は「寄生虫によって引き起こされる感染症の治療の開発」で、大村氏が開発したイベルメクチンによって、何億という人々が熱帯感染症による深刻な障害を負わずに済んだといわれています。

 このイベルメクチンというお薬、実は日本人にとっても重要な薬剤なのです。

アフリカのオンコセルカ病などの治療に貢献

 大村氏は、1979年に放線菌が生産する物質エバーメクチンを発見、回虫、鈎虫やダニ、蠅の幼虫などに強い活性を示すことを確認しました。エバーメクチンの毒性を減らし、活性を高める目的で開発されたジヒドロ誘導体がイベルメクチン(ivermectinと綴るのでアイバメクチンと呼ばれることもある)です。

 世界的には1981年に動物薬として発売され、家畜の寄生虫駆除に役立ち、食料の増産に貢献しました。その後、人のオンコセルカ病に高い効果を示すことが明らかになり、人用医薬品としての市販がはじまりました。

 今回の受賞に際し、以下の2疾患の治療におけるイベルメクチンの貢献が、メディアに取り上げられています。副作用が少なく安全で、年1回程度と投与頻度が低いことは、途上国での使用に好適です。

 一つ目はオンコセルカ症(河川盲目症ともいう)です。回旋糸状虫に感染したブユに刺されると発症し、激しい痒みと皮膚の変化、視覚障害が発生、最悪の場合失明する病気で、ほとんどの患者がアフリカで発生しています。ブユの幼虫に対する殺虫剤散布と、この薬剤の集団投与が行われています。

 二つ目はリンパ系フィラリア症です。こちらは蚊に刺されて、蠕虫であるフィラリアの寄生を受けると、リンパ浮腫が生じる病気で、進行すると足が象のように大きく腫れる象皮病などの症状が現れます。患者の約65%は東南アジアで発生しています。

日本でも高齢者施設で流行する疥癬などに効果

 こうした疾患の患者が日本で報告されることはありません。が、高齢化が進む日本でも、イベルメクチンは重要な治療薬の一つになっています。

 現在、イベルメクチンは、国内の高齢者施設や高齢の入院患者が多い医療機関などで広く使用されています。2006年に疥癬の治療薬として保険適用が可能になったからです。

 疥癬は、ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生して起こる皮膚感染症で、主な症状は皮膚の病変と痒みです。国内では年間8~15万人が新たに疥癬を発症するといわれています。高齢者ほど感染しやすく、人から人へと感染するため、施設や病棟で集団感染が発生する危険性があり、実際にそうした報告が増えています。

 イベルメクチンの登場前は、病変のない部分も含む全身に軟膏を塗布する治療が行われてきました。その労力は大変なものですが、効果は不十分でした。イベルメクチンなら、耐性ダニに寄生されていない限り、1回または2回の服用で効果が現れます。

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