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大隅氏「役に立つかどうかで科学を捉えると社会はダメになる」

ノーベル生理学・医学賞受賞の大隅良典氏が会見

 久保田 文=日経バイオテク

オートファジーと疾患とのかかわりは。

 オートファジーががん細胞にかかわっているとか、神経変性疾患に関連しているのではといった報告が多いのは事実だ。ただ、オートファジーが原因で発症すると分かっている疾患はほとんどない。細胞はまさしく、合成と分解を平衡させて成り立っている。たんぱく質の分解が大事なのは疑いないが、オートファジーが本当にどういう局面で何をしているか解明するのは、これからの課題だ。未病、健康維持も含めて、たくさんの課題が山積している。

今後、どのような研究を行う予定か。

 実は、分解によりたんぱく質などが無くなることを定量的に扱うのは難しく、動物細胞でのオートファジーの定量解析は成功していない。酵母では定量解析ができるので、酵母でまだ先導できることがあるのではと思っている。あと数年、酵母の定量解析で何が壊れてどう代謝に影響するかを集中して解決していきたいと思っている。

研究のモチベーションは何か。

 あらゆる研究者に共通するモチベーションというのはないと思う。ただ現在、生命科学は非常に進歩しており、オートファジーの論文は最近では毎年5000本ぐらい発表される。そういう情報の中で、全てを自分で総括するのは到底不可能。なので、若い研究者には何に興味があるのかをよく考えていてほしいと思っている。論文の中の1つの遺伝子に注目するだけでは、大きな問題は解けないと思う。

 私が最初に(光学顕微鏡で観察した酵母のオートファジーの)現象は、今でも観察対象であり、そういうスタート地点の現象(疑問)を持っていることが今まで続けられた一つのモチベーションだったのかなぁ、と思っている。

オートファジーについて分かりやすく説明してほしい。

 私たちは毎日、たんぱく質を70g、80g食べている。ただ、実際は毎日、たんぱく質は300gぐらい体内で作られており、その原料となるアミノ酸がどこから来るかというと、体内のたんぱく質が分解されてできたアミノ酸が再利用されている。その意味で、オートファジーは、生命を成り立たせる大事な分解機能であり、生命を支えている要素だ。

 稀に、海で遭難し、1週間何も食べず水だけで生きていたという人がいる。でも体内では、たんぱく質合成はとまっていない。身体は実に巧妙にたんぱく質を分解しながら再利用する仕組みを持っている。

髭を伸ばしているがきっかけは。

 童顔だったので、海外留学時に若造に見られたくないと思って留学前に髭をはやした。その頃は真っ黒だったがだんだん白くなった。留学中にちっとも面白いことがないので一度髭を剃ったことがある。自分で、『こんな顔していたのか』とびっくりして、次の日からまた伸ばし始めた。もう40年ぐらい無精ひげを伸ばしている。いろいろ楽だ。妻からは、日頃、髭短くしろとうるさく言われているので、今日はいつもよりちょっとだけ短く切ってきた。

子どもに対して伝えたいことは。

 現代は、なかなか自分の興味を伸ばすことが難しい時代になっていると思う。子どもには、『あれっ』と思うことがたくさんあるので、そういう気づきをとっても大事にしてほしいと思う。生命現象には、分かっているような気分になっているけれど、実は分かっていないことがたくさんある。『なんでだろう』という気持ちを大事にする子供が増えてくれたら、日本の将来は安泰だが、今は必ずしもそうなってない。『何とかなるさ』という精神で、いろんなことにチャレンジしてくれる子が増えることを強く望んでいる。それを社会が支えるような環境を作れればと思っている。

受賞の賞金の使い道は。

 この歳になって豪邸に住みたいわけでもないし、外車を乗り回したいわけでもない。できるだけ役に立つことができればいい。何に使ったら一番いいか、若い人たちのサポートができるようなシステムができないか、考えている。社会的に、ノーベル賞に意味があるとすれば、そういう仕組み作りが少しでもやりやすくなることではないか。もう少し生きている間、数年間にそういうことの一歩が踏み出せればいいなと思っている。

基礎研究の重要性について。

 役に立つかどうかという観点でばかり科学を捉えると、社会をダメにすると思う。科学の世界では、『役に立つ』を、『数年後に実用化できる』と同義語に使うことがあるが、大いに問題だ。その科学が本当に役に立つのは、10年後、20年後かもしれないし、100年後かもしれない。将来を見据え、科学を文化として認めてくれるような社会にならないかと思っている。

この記事は、日経バイオテクONLINEからの転載です。

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