薬用せっけんに含まれる殺菌成分が健康を脅かす?
米FDAが市販品からの除去を指示、効果は普通のせっけんと変わらず
大西淳子=医学ジャーナリスト
米食品医薬品局(FDA)は2016年9月2日、市販の殺菌消毒ソープ類(液体、泡、ジェル状のハンドソープと固形せっけん、ボディソープ)に含まれる19の殺菌成分について、今後1年間に、それらの成分を除外して発売するか、販売自体を中止するよう、メーカーに指示したことを発表しました(*1)。この19成分の中には、日本の薬用せっけんなどに添加されているトリクロサンやトリクロカルバンも含まれています。
普通のせっけん以上に病気を防ぐという科学的なデータはない

殺菌、消毒効果があるとパッケージに書かれたソープ類には、普通のせっけんには含まれていない殺菌成分が添加されています。殺菌消毒せっけんを購入する人は、それらを使用すれば、家庭内での細菌感染を防げて、家族が病気になるリスクは下がると考えているのではないでしょうか。
FDAは今回のリリースの中で、「普通のせっけんより殺菌消毒せっけんの方が病気を防ぐ効果が高いことを示した科学的なデータはない」とし、普通のせっけんと水を使って、正しい方法で手を洗うことが、家庭内だけでなく、学校その他のあらゆる場所で、さまざまな感染症の流行を予防するために最も大切だと述べています。FDAはなぜこのような結論に至ったのでしょうか。
米国では以前から、殺菌消毒ソープ類の多くに活性成分として添加されているトリクロサンについて、人の健康や環境への悪影響を示唆する研究結果が報告されていました。動物実験では、トリクロサンが複数のホルモンの作用に影響を及ぼすことが示されています。また、トリクロサンが細菌の抗生物質への耐性獲得を促す(その結果、抗生物質の有効性に影響を与える)可能性を示した実験データもあります。トリクロサンのような殺菌消毒成分は、幅広い製品に含まれているため、日常生活において誰もが、頻繁かつ長期間それらにさらされる危険性があります。
そこでFDAは、消費者向けの製品は安全で有効でなければならないという考え方に基づき、市販されている殺菌消毒ソープ類の活性成分の効果と害について、利用可能な文献を調べ、公開討論会も実施して、検討を重ねてきました。2013年には、有効性と安全性が明瞭ではない19の活性成分を選出し、製造会社などに、今後もそれらを含む製品の販売を継続したいのであれば、安全性と有効性を示す追加データを提出するよう求めました。
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