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がん患者向けの哲学カフェに参加して分かったこと

直視しにくい死や生き方を考える時間に

 福島恵美=ライター

 中岡さんは話の流れを遮らないようにしながら、開業医だった自身の父の患者への接し方を紹介。その辺りから別のがん患者が、死への不安を吐露し始めた。死をどのように考えればいいのかという、正解のない深い問いに皆が思いを巡らせ、発言したり、人の話を聞いたりした。

 「おんころカフェでは結論を出すことはしません。死や生について考え、対話することで、それぞれの方の何かの気付きにつながればと思います」と言って中岡さんは会を閉じた。

がんで家族を亡くした2人が出会い始まった「おんころカフェ」

 おんころカフェが始まったのは2016年5月。家族をがんで亡くした経験のある中岡さんと佐野さんが、哲学の勉強会で出会ったのがきっかけだった。がんや難病患者とその家族を対象に「哲学対話」(哲学カフェともいう)を開くことにしたのだ。オンコロジー(腫瘍学)に由来し、おんころカフェと名付けた。

 「もともと哲学対話は、1998年に大阪大学大学院文学研究科に発足した『臨床哲学研究室』で始めた取り組みです。私は同僚だった哲学者・鷲田清一さんとともに、研究室の創設に関わりました。臨床哲学は決まった定義のある学問ではないのですが、『書を捨てて町に出よう』という精神で社会の現場に赴いて人々の苦しみに関わります。例えば、ホスピスの関係者とコンタクトを取り現場に入って研究した院生がいますし、2001年に大阪で開かれた日本ホスピス・在宅ケア研究会(医療・福祉従事者や市民ががん、在宅ケアなど医療・福祉の諸問題を考える会)の全国大会で哲学対話を行いました」(中岡さん)

 臨床哲学研究室が誕生した年に、中岡さんは離れて暮らす父を胃がんで亡くした。「その年の3月に訪ねたときは体がとても弱っていて。死が近づいているのに父と有意義な会話ができず、テレビの相撲中継をぼんやりと見て過ごしました。家族だからこそ父の苦しさがよく分かり、なかなか話を切り出しにくかったのです。当時は仕方がないと考えていましたが、これでよかったのだろうかという後悔が、潜在的にずっとあったと思います。3年ほど前に佐野さんと出会い、話をするうちに、私たちで哲学対話を始めましょうということになりました」

 一方佐野さんは、10年前に父が余命2カ月の腎がんと診断され、その後亡くなった。「当時、病院の中に相談できる窓口はなく、診療以外に声をかけてくれる医療者もいませんでした。私と母は決めなければいけない医療的・事務的な事柄に追われ、本当に孤独で苦しい日々を送っていました。ですから、私も当事者であることを実感しながら、おんころカフェに参加しています」と話す。

がんになり変化した生き方を対話で立て直す

 おんころカフェは進行役が重要な役割を果たす。中岡さんのように発言を促したり、話の流れが脱線しないように導いたりするには、哲学対話の豊かな経験が必要だ。

 「私は患者さんや家族の経験、感情を尊重し、自分の言葉で自然に表現してもらえるように努めています。対話に介入する姿勢は取りませんが、参加者が話した言葉の中で、皆さんに注意を向けたいところをフォーカスして伝えることはあります。そのような言葉には哲学でいう普遍性があり、他の参加者にも意味を持つ内容になるからです。とはいえ、必ず発言する必要はなく、聞いているだけでも構いません。積極的な発言を希望しますが、沈黙してじっくり考えることも大切にしています」(中岡さん)

 では、がんや難病患者に、なぜ哲学対話が必要なのだろうか。

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