世界初、失われた陰茎が移植で回復
脳死ドナーからの移植後3カ月で全ての機能が回復
大西淳子=医学ジャーナリスト
それゆえ、命にかかわらない臓器移植の場合には、基本的に、移植によって得られる利益と免疫抑制剤がもたらす害のバランスが考慮されます。たとえば先頃、世界で初めて子宮移植を受けて妊娠・出産に成功した女性の場合には、移植を行ったスウェーデンGothenburg大学のMats Brannstrom氏らが提示した「医学的な理由から、移植子宮は最大で2回の妊娠に成功した後に摘出する」という条件に同意したうえで手術を受けました(*3)。
術後、患者のガールフレンドが妊娠
今回、南アフリカ共和国で陰茎移植を受けた患者の陰茎がいつまで、拒絶反応なしに機能する状態を維持できるかは、全くわかりません。が、さらにうれしい驚きもあったようです。van der Merwe氏は2015年6月に、米CNNのインタビューに答えて、「患者のガールフレンドが妊娠4カ月で、11月には出産する予定だ」と述べたとのこと。患者は術後1年たたずに、父親になれそうです。
日本では、臓器移植は主に、移植以外に生きながらえる方法のない患者の「命を救う」ために行われています。陰茎の喪失は、生命には影響せず、障害について他人に知られることもほとんどない状態ではありますが、男性本人にとっては「死ぬよりもずっと辛い」ことではないでしょうか。たとえ、その後に感染症やがんになったとしても、正常に機能する陰茎がほしい、という気持ちに応える医療もまた、患者の「命(人生)を救う」ように思います。