フェルプス選手も利用するカッピング・セラピー、プラセボ効果が好成績を後押し?
「信じる気持ちはプラセボ効果を生む」との見解も
大西淳子=医学ジャーナリスト
2016年8月7日、米国のマイケル・フェルプス選手が通算19個目となる金メダルを獲得した、リオデジャネイロ五輪・競泳男子400mリレー。この白熱のレースのTV中継で世界の人々の目を引きつけたのは、泳ぐ前の彼の右肩に残る紫色の丸いアザのようなものでした。レース後、フェルプス選手は西欧メディアに対し、カッピング・セラピー(吸い玉療法)の跡だと説明しました。
欧米でアスリートとセレブに人気

リオ五輪ではほかにも、体操競技に出場した米国のアレクサンダー・ナドゥール選手などがカッピング跡をつけて競技に出場していました。テニスで金メダルをとった英国のアンディ・マレー選手も、カッピング・セラピー愛好者です。
ハンマー投げ金メダリストの室伏広治選手は、現役期間にカッピングを利用していたことを公表しています。アスリートたちは、カッピングが、酷使している筋肉の痛みの軽減に役立つと考えているようです。
海外セレブの間でもカッピングが流行しています。マドンナ、レディ・ガガ、ジャスティン・ビーバーなどが、カッピング跡を自慢げに曝した写真をSNSにアップしています。ハリウッド・セレブはもっと以前からカッピング・セラピーを受けていました。グウィネス・パルトローは2004年に、カッピング跡が残る背中の写真を撮られていました。ジェニファー・アニストン、ジェシカ・シンプソン、ビクトリア・ベッカムなども、ドレスからのぞくカッピング跡を目撃されています。
専用のカップを痛む部位に付けて空気を吸い出す
日本では吸い玉療法とも呼ばれるカッピング・セラピーは、古代エジプト、古代中国などでも行われていた、伝統的な代替療法です。専用のカップを背中の痛む部位などに付けて中の空気を吸い出し(今は吸引ポンプを使うことが多い)、数分間放置する方法(ドライ・カッピング)が一般的ですが、本場中国では、ツボの位置に小さな傷をつけてカップで覆い、減圧して、積極的に出血させるウェット・カッピングも盛んに行われています。ただし、施術後は、出血部位の感染に気を付ける必要があるため、アスリートには不向きです。
カッピングは、有害物質の排出を促し、血流をきれいにし、血行をよくすると考えられています。しかし、カッピングについて調べた研究は、中国以外ではわずかしか見られていません。それでも、カッピング・セラピーに関する臨床試験を網羅的に調べて分析した研究がいくつかありました。
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- 施術の性質上、客観的な効果の検証が難しい
