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炎天下での熱中症予防のコツ。頭と首の冷却カギ、服は黒より白を

熱中症を衣服の工夫で防ぐコツ(後編)

 塚越小枝子=フリーライター

猛暑の中で、熱中症になるリスクを下げ、少しでも快適に過ごすための衣服の工夫について、神戸女子大学教授・平田耕造さんの話を紹介する本特集。前編「熱中症防ぐなら、発汗時は綿よりポリエステルの服を」では「熱の放散を促進する」ことの大切さについて解説した。後編では「体に入る熱を遮る工夫」「圧迫で体液循環・発汗量をコントロールする工夫」について紹介する。

日傘の遮熱効果は絶大。「酷暑の時期は、男女問わず利用することをお勧めします」と平田さん。写真はイメージ=(c)BlueOrange Studio-123RF

体に入る熱を遮る3つのコツ

1 服は黒・濃色より白・薄い色を選ぶ
濃い色のほうが熱線の吸収が大きく、体への負担はより大きい。写真はイメージ=(c)rostislavsedlacek-123RF

 衣服が熱を吸収する度合いは、色によって大きく違う。図1に示すように、白の熱線吸収を1とすると、黒は2.5倍になり、明らかに多くの熱を吸収して温度が高くなる。

 「同じ色でも色の濃さが増すほど熱線の吸収も大きくなります。また、体温上昇は同じ場合でも、白より黒のほうが熱線を吸収して布の温度が高くなるため、体はより強い熱負荷を受けます。結果、体温の上昇を抑えるためにより多量の汗をかきます」(平田さん)

 夏の炎天下では、黒・濃色より白・薄い色を選ぶほうが賢明だ。

『身近な環境 衣生活の科学』(弘学出版)掲載の図を基に改変
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2 頭部や首を積極的に冷やす

 人間以外の動物には「選択的脳冷却」といって、重要な脳を優先的に守るため、積極的に脳を冷やすメカニズムが働いているという。

 「例えばいつもウールの毛皮で覆われているヒツジの場合、暑いときはパンティングと呼ばれる浅くて速い呼吸によって鼻から水蒸気を蒸発させ、鼻の粘膜で冷やされた静脈血が頭蓋底の膨らんだ静脈部分に集まります。脳へ向かう動脈は膨らんだ静脈を貫通し、網目状に枝分かれした動脈の細い血管部分が静脈に包み込まれることで、強力な対向流熱交換(ラジエーターの役割)が行われ、熱い動脈血が冷やされて、脳内に送られる血液の温度は2~3℃も下がります」(平田さん)

 人間の選択的脳冷却については議論があるが、「人間は汗を蒸発させることによって皮膚温が下がり、皮下にある静脈を流れる血液の温度も下がります。人間にはヒツジのような特別な静脈はないものの、脳内に海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくとう)という部分があり、頭皮や顔面で冷えた静脈血がここに流れ込み、脳温を下げるのに貢献しているといわれています。海綿静脈洞では、心臓から脳へ向かう動脈と密接しているのですが、これはおそらく、冷えた静脈血と熱い動脈血が熱交換をするためではないかと思われます」と平田さんは言う。

帽子はつばが大きく、通気性が高いものがいい。写真はイメージ=(c)ittichai anusarn-123RF

 脳細胞が最も高体温に弱いことを考えても、外側から頭部を優先的に冷やすことはとても有効だという。頭部の熱を遮る工夫の一つに帽子があるが、汗をかいたまま帽子をかぶりっぱなしだと、汗の蒸発が抑えられるので選択的脳冷却の効果は抑制されて脳の温度が上昇してしまい、熱中症のリスクが高まることに注意したい。

 帽子は、太陽光からの輻射熱を遮る効果を期待するのであれば、つばが大きく顔全体が日陰になるものがよい。また、通気性が高く、できるだけ多くの汗を蒸発させるなど、選択的脳冷却効果の高いものが望ましい。反対に通気性の低い帽子をかぶりっぱなしでは汗の蒸発は期待できず、選択的脳冷却も効かない。汗をかいた後はときどき帽子を脱いで汗を蒸発させることが大切だ。

 また、脳へ流れる血流を冷やすために、首を冷却グッズなどで冷やすのも効果的だ。首には太い頸動脈が通っており、そこから皮膚表面へ常に熱が移動して表面温度が高くなる分、多量の熱が放散されている。「首の皮膚は冷たさに対する感度も高いので、首の冷却効果は大きく、有効です」(平田さん)

3 男女問わず日傘を利用する
日傘をさすことによって、暑さの感じ方はかなり違ってくる。写真はイメージ=(c)BlueOrange Studio-123RF

 平田さんらは色や素材の違う各種の日傘を比較して、日傘の紫外線遮蔽効果と遮熱効果を明らかにする実験を行った(*1)。日傘の傘下20cmのところをWBGT(暑さ指数)計を用いて測定した結果、日傘なしに比べて日傘があるほうが2℃近くWBGTを抑えられた。

 また、通販などで販売されている、傘の中に扇風機が付いている日傘についても調べている。扇風機付きの日傘を利用して人体への効果を調べた結果、体温上昇が抑えられ、発汗量も減少して体の負担が軽減していることが分かった。人が感じる「主観的な快適感」も扇風機付き日傘のほうが高かった。

 扇風機付きの日傘を持っている人は少ないかもしれないが、それに限らず、日傘には紫外線を遮る効果だけでなく、熱線そのものを遮り、熱中症を予防する効果も期待できそうだ。なお、この実験では銀色の日傘が最も熱線を遮る効果があった(*2)。

 また、別の実験でも、日傘なし・黒球温度(*3)30℃という条件の下で、白い日傘の下の黒球温度は21.5℃、黒は21.1℃、水色は21.2℃、銀色は19.6℃という結果で、太陽光を反射する銀色の日傘に高い遮熱効果を示す可能性が見られた(*4)。いずれにしても日傘をさすことによって、暑さの感じ方はかなり違いそうだ。

 「日傘の効果は絶大。男女問わず日傘を利用することをお勧めします」(平田さん)

*1 謝雅竹、平田耕造.日傘の紫外線遮蔽およびWBGT抑制効果.日本生気象学会雑誌. 2012;49(3):S49

*2 厳密には、黒と白はポリエステル製、銀色はナイロン製だったが、「この素材の違いが紫外線遮蔽効果や遮熱効果に大きな影響を与えたとは考えにくい」と平田さんは話す。

*3 黒球温度は、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度計を入れて観測する。直射日光にさらされた状態での球の中の平衡温度であり、弱風時に日なたにおける体感温度と相関している。

*4 平田耕造、大谷由依、片山裕香、謝雅竹.日傘における紫外線、可視光線および日射の遮蔽効果. 日本繊維製品消費科学会2011年年次大会・研究発表要旨:p134、2011年6月25~26日(於:武庫川女子大学)

着圧の効果を利用して血流・発汗をコントロール

 衣服の着圧を利用することで、体を循環する血液の量や発汗をコントロールできる可能性もあるという。

 「血液や組織(間質)液などの人間の体液循環は、姿勢を変えるだけで毛細血管にかかる圧力が変化して分布が大きく違ってきます。立った姿勢の場合、寝た姿勢よりも体液の分布が下半身に多くなり、上半身は少なくなります。それとともに、心臓へ戻る静脈血が少なくなります。暑いときは皮膚表面の汗腺から積極的に熱を外に逃がすため皮膚血流が多くなり、さらに下半身にたまる静脈血が多くなることも加わって、体液循環の変化がより大きくなります」(平田さん)

 姿勢だけでも心臓へ戻る血液量は違ってくるが、汗をかくと物理的にも体内の水分量が外に出ていって減るため、水分補給をしなければ心臓に戻る血流量がさらに減って脱水になる。心臓に戻る血液が足りなくなるレベルまでくると、皮膚血流量の増加は抑えられる。つまり、体温調節が犠牲になるということだ。熱放散の増加が抑えられ、熱中症のリスクが高まる。

 これに対して、下半身に広く圧迫を加えると、心臓へ戻る静脈血が増えるため心臓の1回拍出量が増えて、心拍数が低下することが実験で確かめられている。つまり、圧力によって血液が心臓へ戻りやすくなる。下半身を適度に締め付けることによって毛細血管の外側へ出た体液が血管の中へ押し戻され、それにより少しでも循環する血液量が保たれ、上記のような脱水に伴う体温上昇を抑えられる可能性があるということだ。

着圧ストッキングなどで下半身に圧迫を加えると、発汗の抑制につながる可能性もある。写真はイメージ=(c)Jean-Paul CHASSENET-123RF

 「ただし、着圧ソックスやタイツなどを着用すると、それにより熱そのものが逃げにくくなるというマイナス面も考えられます。網タイツ状になったものなど、熱放散が抑えられるマイナス面より圧力による血液量増加のプラス効果が大きくなるものを選ぶ必要があります」(平田さん)

 圧迫は条件次第で発汗の抑制につながることもあれば、促進につながることもある。体調や場面に応じて調節する知恵が求められそうだ。

 また、「半側発汗」といって、皮膚に対して圧迫を加えると、圧迫を加えられた側の汗は減って、反対側の汗が代償する形で増える現象が起こることが知られている。補正下着などで下半身に圧力が加わると顔や上半身の汗が多くなるが、逆に、胸部あたりを圧迫すると、顔の汗が抑えられ、下半身に多くなる(図2)。少なくとも「汗は体に加わった圧力の影響を受ける」ということは覚えておくとよいだろう。

黄色い部分が発汗抑制が起こる範囲。左は第4~5肋骨上、中央は第9~10肋骨上、右は腸骨稜上を押さえた場合。(平田さん提供資料を基に作成)
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体が暑さに慣れると汗と体温上昇は抑えられる

 平田さんらは、季節ごとに体温調節反応がどのように変化するかも調べており、体が寒さに適応している冬から春にかけては、汗をかいても皮膚血流量がなかなか増えず体から熱が出ていきにくいが、体が暑さに慣れる9月ごろは、皮膚血流量が多くなり熱を体の深部から表面に運ぶ能力が高まる一方で、マイルドな熱負荷では体温上昇が最も小さくなることが確かめられているという。冬や春に比べると少ない汗でも十分な体温調節を行える「夏仕様」の体になっているということだ。

 「体温調節は衣服だけでなく体の条件により左右されます。日ごろの運動習慣や入浴習慣などで、本格的に暑くなる前に、皮膚血流量が多くなり、早く汗をかける暑熱耐性の高い体になっているかどうかも熱中症予防に影響します。ただし、酷暑の中で無理に運動するのはかえって危険です。日ごろから栄養や運動、十分な睡眠などに気をつけ、健康を維持することが大切です」(平田さん)

 人間の体温調節の仕組みを理解して、さまざまな工夫で賢く暑さを乗り切ろう。

(図版作成 増田真一)

平田耕造(ひらた こうぞう)さん
神戸女子大学家政学部教授。医学博士
平田耕造(ひらた こうぞう)さん 東京学芸大学大学院修了後、金沢大学医学部生理学第一講座助手、講師を経て1989年4月から神戸女子大学家政学部助教授、93年から教授、2013年4月から副学長。専門は環境生理学。気象条件の急変や室温差に対し、衣服はポータブルな快適環境をつくるもの。衣服内や皮膚の温湿度・皮膚血流や発汗等を指標として、特に皮膚の動静脈吻合(AVA)血流に注目して研究に取り組む。