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いよいよリオ五輪、ジカ熱の最新情報を総まとめ

ブラジルでの流行はピークを過ぎる、だが蚊対策は万全に

 大西淳子=医学ジャーナリスト

 リオデジャネイロ五輪開幕まで「あと〇日」というカウントダウンに期待感を募らせている人も多いと思います。もしあなたがリオ五輪のチケットを持っているなら、ここにジカ熱(ジカウイルス感染症)に関する最新情報があります。蚊に刺されないよう十分な用意をしてお出かけください。国内でTV観戦する人も、他人事ではありません。五輪後に、ジカウイルスの感染が国内で広がり、小頭症などの異常を背負って生まれてくる子どもが増えないよう、蚊対策に留意していただきたいと思います。

ジカウイルスを運ぶのは、ネッタイシマカやヒトスジシマカ。(©Mr.Smith Chetanachan-123rf)

 おおよそ半年前に、その時点でわかっていたジカ熱ジカウイルス感染症)の情報をまとめました(「リオ五輪後の日本が危ない! ジカ熱が中南米で急増」)。その中で最も重要なのは「ジカウイルスに感染しても、ジカ熱を発症するのは5人に1人程度」という部分です。これまでに行われた研究は、ほとんどが発症した人を対象としていました。そのために、最も心配な、妊婦が感染し、発症しなかったケースを含めての胎児への影響については、多くが謎のままです。

世界の現状 ~2015年以降、62の国と地域で発症者~

 世界保健機関(WHO)が、2016年7月14日、ジカウイルス感染症に関する状況報告を公表しました(*1)。

 2007年以降に、蚊に媒介されたジカウイルス感染症発症者が報告された国と地域は65カ所になりました。うち62カ所は、2015年以降に発症者が見つかった国と地域で、48カ所では、初めてのジカウイルス感染症アウトブレイクと認識されました。

 なお、11カ所の国と地域で、性行為を介したと思われるジカウイルス感染が報告されています。

 ジカウイルスによると思われる小頭症と他の中枢神経系の異常が報告された国と地域は2016年7月13日までに13カ所になりました。うち3カ所では、異常を持つ子供の母親が、妊娠中にジカウイルス感染症流行国を訪問していました。

 ジカウイルス感染症の流行と並行して、ギラン・バレー症候群(GBS)の罹患率が上昇、またはジカウイルス感染が確認されるGBS患者が増加している国は15カ所になりました。また、複数の国で、ジカウイルス感染者にGBS以外の神経障害が見られています。

 研究者たちはすでに、ジカウイルスの感染が、小頭症とGBSの原因であるという見解について合意しています。

ブラジルの今 ~リオ五輪観戦は危険?~

 ブラジル保健省によると、1週間あたりのジカウイルス感染症発症者数が最も多かったのは2016年2月14日から20日までの週でした。発症者は、それ以降緩やかに減少し、5月第1週にはピーク時に比べ87%減少していました(*2)。

リオは冬なので蚊に刺されるリスクは低いが、刺されないよう細心の注意を。(©marchello74 123rf)

 米疾病予防管理センター(CDC)は2016年7月13日、リオ五輪がジカウイルス感染症の流行拡大に結びつくことはないという見解を示しました(*3)。

 ブラジル政府観光局の予想では、リオ五輪には、207カ国から、35万人から50万人の選手と観戦客が訪れますが、その数は、2015年に、ジカウイルス感染症の流行が報告されていた国を訪れた旅行者全体の0.25%に過ぎないこと、また、五輪開催期間はブラジルの冬に当たるため、蚊に刺されるリスクは低いことを、CDCは理由として挙げています。

 ただし、妊婦は五輪観戦に行くべきでなく、全ての観戦者は、リオ訪問中と、帰国後3週間は、蚊に刺されないようにする必要があるとCDCは述べています。そして、全ての観戦者に対して、性行為によるジカウイルス感染を予防するために対策を取るよう注意喚起しています。

性行為感染に注意 ~流行地に渡航していなくても感染の恐れ~

 ジカウイルスは感染者との性行為でも感染します。CDCは、2016年7月15日、女性から男性へのジカウイルス感染が初めて報告されたと発表しました(*4)。これまでの性行為感染は、多くが男性から女性パートナーへの感染で、一部に男性から男性パートナーへの感染も報告されていました。

 なお、精液中には、ジカウイルス感染症発症から最長93日後まで、ウイルス遺伝子が存在します(*5)。

 WHOが旅行者向けに提供した情報を日本語で提供している厚生労働省検疫所は、「ジカウイルスのさらなる伝播を防止し、妊婦への害と胎児への影響を防ぐために、旅行からの帰国者は一貫して適正にコンドームを使用するか、もしくは、少なくとも8週間は性交渉を控え、安全な性生活に努めてください。男性が症状(発疹、発熱、関節痛、筋肉痛や結膜炎を)を発現しているときには、性行為をより安全に行うことを選択するか、少なくとも6カ月間は(性行為を)控えることを考える必要があります」と述べています(*6)。

国内の状況 ~帰国者7人が発症~

 これまでのところ、日本国内でジカウイルスに感染した患者はいませんが、今回の中南米でのアウトブレイク以降に、流行国から帰国した7人が国内でジカウイルス感染症を発症しています。

 流行地域でジカウイルスに感染し、日本に帰国(入国)した人が国内で蚊にさされると、日本の蚊がジカウイルスを持つことになります。その蚊が別の人を刺した場合に、国内で感染者が発生する可能性があります。

 ジカウイルス感染症について詳しく知りたい方は、厚労省のQ&Aページ(*7)をご覧ください。厚労省は啓発用のポスターなども提供しています(*8)。

 政府は、2016年6月を「夏の蚊対策広報強化月間」に指定し、ジカウイルス感染症の予防を目的とする、「蚊を増やさない」、「蚊に刺されない」ための国民運動への協力を呼びかけました(*9)。残念ながら、十分に周知されないままに終わってしまったようです。

 五輪直前の今こそ、「蚊を増やさない」よう、おのおのが自宅周囲のたまり水を捨てるなどして、蚊の発生源をなくしましょう。

妊婦の感染が恐いわけ

 仏Pasteur研究所のSimon Cauchemez氏らが、ブラジルに先駆け2013~2014年にアウトブレイクが発生した仏領ポリネシアのデータを分析したところ、妊娠初期のジカウイルス感染による小頭症のリスクは0.95%と推定されました(*10)。

 2015年にブラジルで発生したアウトブレイクでは、ジカウイルス感染による可能性がある小頭症や中枢神経系の発達異常が疑われる小児が、数千例報告されています。米CDCのMichael A. Johansson氏らが、ブラジルで収集したデータを分析したところ、妊娠初期のジカウイルス感染のみが小頭症のリスクを上昇させることが示唆されました(*11)。

 ここまでの研究は、ジカウイルス感染症を疑わせる症状を経験した妊婦を対象にしていました。そこで、コロンビアのInstituto Nacional de SaludのOscar Pacheco氏らは、別の方向から分析を試みました。2016年1月から2016年4月までに報告された小頭症児50人を対象に、胎内でジカウイルスに感染していたかどうかを調べたところ、4人が胎内感染していました。しかし、4人の母親は全員が、妊娠中にジカウイルス感染症を示唆する症状を経験していませんでした(*12)。

 小頭症児の出生を避けるためには、妊婦が妊娠初期にジカウイルスに感染しないことがなにより重要です。具体的には、ジカウイルスを媒介する可能性がある蚊に刺されないこと、ジカウイルスに感染した可能性があるパートナーとの性行為は回避する、または慎重に予防策を取る必要があります。

 2016年7月25日に発表された最新の研究(*13)では、今回の流行が終息するまでに、中南米とカリブ海地域全体で、165万人の妊婦を含む9340万人がジカウイルスに感染する可能性が示唆されています。これは、米Notre Dame大学のT. Alex Perkins氏らが、南北アメリカ大陸でのジカウイルス感染の流行の推移を予測するシミュレーションを行った結果です。小頭症などの関連症状を有する子どもを出産するのは、妊娠初期に感染した妊婦の1%、と控えめに仮定しても、ジカウイルス関連の先天異常を背負って生まれる子どもは、この地域だけで数万人になると予想されました。

妊娠初期にジカウイルスに感染したかも、と不安になったら

 日本感染症学会は、2015年に蚊媒介感染症専門医療機関ネットワークを構築しました。ネットワークの一員で、産科婦人科あるいは周産期センターを持つ医療機関が「ジカウイルス感染症協力医療機関」として、ジカウイルス感染が疑われる妊婦に対応することになっています(*14)。感染が疑われれば、かかりつけの医院から紹介してもらえます。

*14 2016年3月時点での協力医療機関:http://www.kansensho.or.jp/mosquito/zika_list.html

おわりに

 健康な成人がジカウイルス感染症を発症しても、症状は発疹や軽い発熱に留まり、入院はほぼ不要です。しかし妊婦の感染は、皆が力を合わせて最大限防がねばなりません。まずは、身の回りの蚊の駆除から始めてみませんか。

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