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運動時の熱中症対策、水は1回にゴクゴク…と「9口」がコツ

熱中症・脱水予防のために知っておきたいこと(3)

 伊藤和弘=フリーランスライター

 気温や湿度が上がり、熱中症が多発する季節になってきた。そこで環境省主催の「平成29年度熱中症対策シンポジウム」の中から、働き世代が押さえておきたい3講演の内容を一つずつ紹介しよう。今回は筑波大学体育系の渡部厚一准教授による「スポーツと熱中症」をお届けする(第1回は「熱中症、重症かどうかの見極め方は? 応急措置はどうする? 」、第2回は「高齢者の『熱中症』はなぜ多い? 脱水の予防策は?」)。

運動中の水分補給は、1回当たり、ごく、ごく、ごく……と9口飲み込もう(c)fotokvadrat-123rf

運動量の少ないスポーツも安心できない

 スポーツの運動量は種目によって大きく異なる。ゴルフやボウリングに比べて、サッカーやレスリングははるかに運動量が多いのは誰でも想像がつくだろう。そして、熱中症といえば、運動量の多いスポーツほどリスクが大きいと思っている人は少なくないだろう。だが、それは誤解だ。

 消費カロリーを示すのにMETsという単位が使われる。これはじっとしているときのカロリー、すなわち基礎代謝を1METsとして、その何倍のカロリーを消費する運動なのかを見たもの。ゴルフは約5METsに対し、サッカーやランニングは約10METsになる。

 しかし、負荷が少なければ安全かというと、必ずしもそうとはいえない。オーストラリアでスポーツ種目と熱中症の発症率を見た研究によると、野球やクリケットで熱中症を起こすのは15~24歳が最も多かったが、35~44歳ではマラソンが多く、65歳以上ではゴルフで熱中症を起こす人が最も多かった(*1)。「65歳以上のデータはゴルフ人口が多いためと考えられるが、どのようなスポーツでも熱中症が発生する可能性はあるということ」と渡部准教授は指摘する。

 また、屋外のスポーツに比べ屋内のスポーツのほうが安全だと思っている人もいるだろうが、それも誤解だ。中高生の運動部のスポーツ種目別の熱中症死者数を見ると、最も多いのは野球。さらにラグビー、サッカーと続くが、剣道や柔道といった屋内で行う競技も意外に多い。夏でも防具を着けなければいけない剣道の死者数はサッカーに匹敵するほど多く、屋内競技も決して油断できないことが分かる。

図1 スポーツ種目別熱中症死者数
日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会「体育活動における熱中症予防 調査研究報告書」(2014年3月)より、平成2~24年度の23年間での集計
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 スポーツで熱中症が発生するのはなぜか。まず、運動によって体内に熱が発生し、体温が上がるからだ。屋外スポーツであれば炎天下で行う、剣道であれば防具を着けた状態など、日常生活とは大きく環境が異なることも関係している。渡部准教授はさらに、スポーツの服装なども含めた「ルール」も大きな要因になっているという。

* J Sci Med Sport. 2008 Jan;11(1):40-7.

 「例えば野球では、敵の攻撃が終わるまで、炎天下のグラウンドに立ち続けなければいけない。その間は自由に水も飲めませんし、トイレにも行けません。熱中症予防のためには、特に練習中や練習試合などではルールをアレンジすることも必要でしょう」(渡部准教授)

WBGT(暑さ指数)を確認する

 熱中症のリスクを判断するには、その場の環境を正しく認識するのが基本だ。そのためにWBGT(=Wet Bulb Globe Temperature)という数値を確認しておこう。日本語では「暑さ指数」と訳される。気温に湿度と輻射熱を取り入れた指標で、気温と同じ摂氏で表されるが、「一般に気温より3~4℃低くなります」と渡部准教授。

 日本体育協会では、WBGTが31℃以上(気温35℃以上)の日は「特別の場合以外は運動を中止する」、WBGTが28℃以上(気温31℃以上)の日は「激しい運動や持久走などは避ける」ように指導している。

図2 WBGT(暑さ指数)と運動
日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2013年)より
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 環境省では、熱中症予防情報サイトで全国各地のリアルタイムのWBGT(暑さ指数)を子どもや体育館などの条件別にも発表している。これからの季節、スポーツをするときはぜひチェックしてほしい。

水は1回につき9口飲み込むのが目安

 夏にスポーツをしていて具合が悪くなったら、まずは熱中症を疑おう。のどの渇き、被刺激性(イライラ)、頭痛とめまい、筋肉のけいれんや普段と異なる疲労感、吐き気といった症状は、熱中症の危険兆候だ。これらの症状を自覚したときは、すぐに涼しい場所に行って水分を補給してほしい。

 スポーツ中に熱中症になった人を見つけたら、まずは直射日光を避けて日の当たらない涼しい場所へ運ぶ。氷水、エアコン、霧吹き、扇風機などを利用して、とにかく体を冷やすことが大切だ。

 WBGTのチェックとともに、熱中症予防には水分補給が欠かせない。

 「運動によって短時間で大量の熱が発生し、それに見合って汗もたくさん出る。運動中はもちろん、運動前からそして運動後にも積極的な水分補給が必要です」と渡部准教授。

 ただの水でもいいが、理想は0.1~0.2%の塩分(市販の飲料では「ナトリウム:40mg〔100ミリリットル中〕」「食塩相当量:0.1g」などと表示)と4~8%の糖分を含んだ水。まず運動の前に250~500ミリリットル、運動中は1時間に500~1000ミリリットルの水を飲むといい。1回に飲む量を200~250ミリリットルとすれば、運動前に1回、運動中は1時間に2~4回飲むことになる。

 「250ミリリットルは意外と多い量です。また、スポーツ活動で使う水筒は中が見えず、量が分からないことが多いです。ごっくん、と1口で飲み込む量が20~30ミリリットル程度。ごく、ごく、ごく……、と9口飲み込めば200~250ミリリットルになります。『ごっ9(く)ん』と覚えるとよいでしょう」と渡部准教授はアドバイスする。

 前に触れたように、ゴルフやウオーキングなど、軽い運動でも油断できない。熱中症にならずに夏のスポーツを楽しみたければ、くれぐれもWBGTのチェックとまめな水分補給をお忘れなく!



熱中症・脱水予防のために知っておきたいこと

第1回 熱中症、重症かどうかの見極め方は? 応急措置はどうする?
第2回 高齢者の「熱中症」はなぜ多い? 脱水の予防策は?
第3回 運動時の熱中症対策、水は1回にゴクゴク…と「9口」がコツ
渡部厚一(わたなべ こういち)さん
筑波大学体育系准教授
渡部厚一(わたなべ こういち)さん 1989年、東京大学教育学部体育学健康教育学科卒業。95年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院、国立病院機構茨城東病院(旧・国立療養所晴嵐荘病院)、などの勤務を経て、2006年に筑波大学講師に就任。2012年より現職。日本体育協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会障がい者スポーツ医。
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