麻央さんだから自宅で最期を迎えられたのか
廣橋 猛=永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長
芸能人やお金持ちでないと無理ということは決してない
麻央さんがどうだったかではなく、一般論として述べます。少なくとも自宅での医療用麻薬の管理や点滴、カテーテルの管理などは、病院と同様に行うことができます。痛みが強くなったり、口から薬を飲むことが難しくなったりしたときに用いる、医療用麻薬の持続注射も自宅で安全に行えます。このような経験に長けた在宅医が関わることで、終末期がん患者の苦痛緩和に必要な治療は、自宅でも病院とほぼ同様に行うことができます。
在宅医療の方が、質が劣るということは全くありません。日々の生活の支援をしている訪問看護も、末期がんの方であれば必要なだけ受けることができます。私が訪問している看取りが近い患者には、限られた時間ではありますが、毎日のように訪問看護が入ってくれています。そして、これら医師や看護師の訪問は、全て医療保険を用いることができます。
一方で、麻央さんのように40歳未満の場合、末期がん患者であっても介護保険サービスを用いることができません。ここは若いがん患者の在宅療養の障壁になっており、今後の課題です。もし介護者が不在であれば、自宅療養が困難となる可能性はあります。ただ、麻央さんの場合はご両親やお姉さん(小林麻耶さん)がいらっしゃったと推察されます。ご家族が付き添える環境であれば、医師や看護師のサポートの下、しっかり介護することができるはずです。
以上から、一般的に麻央さんのような状況に置かれたとしても、自宅で過ごしたいという気持ちとサポートがあれば、芸能人やお金持ちでないとかなわないということはありません。ただし、病院と違って、医療者の誰かがすぐ駆け付けられる環境とはいえませんので、家で亡くなることの覚悟が求められます。
麻央さんが在宅で亡くなったことが、一般市民にとって在宅医療を知るきっかけとなり、人生の最期の過ごし方について幅広く考えるきっかけになればよいなと思います。繰り返しになりますが、家で過ごしたい患者や病院の方が安心できる患者、自宅で看病できる家族や介護できない家族。それぞれいます。終末期医療に関わる医療者は、それぞれの患者や家族が希望する場所で、人生の最期を安心して過ごせるように支援していかなければなりません。
永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長

