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「トヨタ役員麻薬密輸報道」が招く、医療用麻薬への誤解

がん患者を痛みから救う薬への誤解と偏見を植え付けないで

 廣橋 猛=永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長

トヨタ自動車常務役員(6月30日付で辞任)だった米国人女性が、医療用麻薬であるオキシコドンを輸入して逮捕されました。本件をめぐる報道に対し、がんの緩和ケアを専門とする医師の廣橋猛さん(永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長)は、「医療用麻薬の怖さを不必要にあおっていないだろうか」と疑問を投げかけます。

 前回の今井雅之さんに関連した記事は、多くの方にお読みいただき、本当にありがとうございました。日経BP社の日経ウーマンオンラインにも転載され、医療者だけでなく、一般の方からもたくさんの反響をいただきました。まだまだ、緩和ケアの普及が十分ではなく、1人でも多くのがん患者が苦痛なく終末期を過ごせるように啓発していかなければと、改めて心に誓いました。

 さて、がんの疼痛緩和を願う身として、またもや看過できない事件が起こりました。当時トヨタ自動車常務役員(6月30日付で辞任)だった米国人女性が、医療用麻薬であるオキシコドンを輸入して逮捕されました。事件の詳細については、取り調べが行われている最中ですので、言及は避けます。ここで皆さんに問い掛けたいのは、またもこの事件に関わる報道についてです。

 テレビや新聞などの報道では、このオキシコドンが「米国では錠剤を砕いて鼻から吸うなどすると、麻薬のヘロインと似た陶酔感があるため、その乱用が社会問題になっている」という内容を伝えています。あるテレビ局の報道では、鼻からストローで吸引している映像を流し、オキシコドンが覚せい剤と変わらない麻薬であるかのような印象を与える内容になっていました。確かに米国では、オキシコドンが慢性疼痛(非がん性疼痛)の患者に多数使用され、その乱用が問題になっており、報道の内容に大きな間違いはありません。

マスコミ報道が医療用麻薬に対する誤解と偏見を生む

 一方で、日本ではオキシコドンは医師の処方せんの下、主にオキシコンチン錠、オキノーム散という商品名の内服薬として調剤され、がんによる痛みと闘っている患者の多くが使用している医療用麻薬です。現在のところ適応はがん性疼痛のみです。すなわち、日本ではがん患者にしか、オキシコドンは使用されていません。なお、日本でも慢性疼痛に対する適応拡大も検討されているそうですが、その際は乱用予防のため絶対に砕けない錠剤になると聞いています。

医療用麻薬は、医師ががん性疼痛を適切に評価し処方している限り、依存や中毒を引き起こすことはまれである。(©Jan Mika-123rf )

 そして、今回の一連の報道で、オキシコドンを使用しているがん患者がショックを受けてしまうのではないかと懸念しています。あるがん患者が、「報道を見て、私の服用している薬が危険なものと知りました。私には必要な薬だけれど、悲しい気持ちになりました」と訴えてこられました。痛みを取るために必要だということを理解していても、自分の飲んでいる薬が悪者扱いされていて、気持ちが良いはずはありません。薬物乱用者と自分は一緒なのかと、自身を責める気持ちになってもおかしくはありません。

 この状況は、今井雅之さんに関わる報道と同じです。モルヒネ(医療用麻薬)は安楽死に使われるものという誤ったイメージを伝え、医療用麻薬を適切に使用すれば多くのがん患者の疼痛を緩和できるという情報が不足していました。報道が、医療用麻薬の誤解と偏見を生んでしまうことは絶対に許されません。今回のオキシコドンに関わる報道も、不必要に医療用麻薬の怖さをあおっていないでしょうか。

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