カルシウムだけではダメ!男も女も侮れない「骨粗しょう症」の予防策
知らぬ間に進行する国民病「骨粗しょう症」予防の新常識
大塚千春=フリーエディタ―・ライター
糖尿病人口(※1)の1.8倍にも及ぶ推計約1300万人(※2)もの総患者数を抱える「骨粗しょう症」。中高年の女性に多い病気としてよく知られるが、平均寿命が延びる中、男性にもそのリスクは高まっているという。「コツコツ骨ラボ 第1回メディアセミナー」における、原宿リハビリテーション病院名誉院長・林泰史さん、および日本獣医生命科学大学客員教授の佐藤秀美さんの話を基に、骨粗しょう症の現状と予防法を紹介する。
※2「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」
予防しないと、知らないうちに進行する「骨粗しょう症」
高齢社会において重要な健康問題の一つは運動器の障害だ。これは長い期間、脚、腰などを使用するために起こる障害で、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)と総称される。変形性関節症、サルコペニア(筋肉減少症)、骨粗しょう症などがその代表例だ。
この中でも、栄養をしっかり摂ることで予防できるのが、骨粗しょう症。自覚症状がないまま少しずつ骨密度(骨量)や骨の質が低下して骨の内部がスカスカになり、強い力が加わらなくても骨折しやすくなる病気だ。
骨粗しょう症には、加齢によって引き起こされるタイプと、病気や薬の影響で二次的に起きるタイプがある。前者は、骨を作るのに必要なカルシウムの吸収が加齢により悪くなることや、栄養やホルモンのアンバランス、運動不足などが原因として挙げられる。女性の場合は、骨形成などを助けてきた女性ホルモン(エストロゲン)が閉経後に激減することも大きな原因となる。
「骨粗しょう症は女性の方が多いのですが、高齢者社会となり寿命が延びたことで、男性の問題ともなってきています」と原宿リハビリテーション病院名誉院長で、骨粗鬆症財団の評議員を務める林泰史さんは指摘する。『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版』によると、日本の骨粗しょう症患者数は男性300万人、女性980万人の計1280万人と推計される。
女性は40代から、男性は50代から増加
日本人女性は40歳ぐらいから骨粗しょう症の患者が増え始め、65歳になると約半数が骨粗しょう症になる。一方、男性は女性よりなりにくいものの、50代より増え始め、80代になると約半数が発症するのだという。
また、高齢者は骨折するだけでなく、骨折後に要介護状態になることが多く、死亡のリスクも高まる。80歳以上の男性、65歳以上の女性では、大腿骨頸部(脚の付け根)の骨折後、5人に1人が1年以内に死亡しているという報告もあるそうだ。「骨密度は血圧計のように手軽に測ることができず、意識して予防しなければ知らないうちに骨粗しょう症が進行してしまう」と林さんはその怖さを語る。
大量飲酒や喫煙の習慣がある人は、リスクが上昇
また、「飲酒や喫煙の習慣がある人は、それぞれをたしなまない人に比べ1.3~1.6倍と骨粗しょう症のリスクが上がる」(林さん)。アルコールは腸管からのカルシウムの吸収を阻害する。また、喫煙者は食欲低下から十分な栄養を摂らないケースがあるほか、タバコには骨からカルシウムが溶け出すのを抑制する女性ホルモンの分泌を抑える作用があることなどがその原因だ。
「英国などの報告を見ると、日本酒にして3合以上を毎日飲む人は骨粗しょう症になりやすいとされています。もっとも、多くの日本の専門家の意見では1日に日本酒1合ぐらいの飲酒であれば、食欲が増してカルシウムを含む多くの食事を楽しく消化しながら食べられることから、骨粗しょう症にとってむしろ良い方向に働くものと考えられています」と林さんは説明する。
一方、喫煙者は飲酒のようにたしなむ程度に吸う人は少なく、1日10本など毎日ある程度まとまった本数を吸う人が多いため、基本的に骨密度は非喫煙者に比べ低下しているといえるそうだ。また、運動不足も、骨密度を低下させる原因となる。
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